翌日。
看護師さんが大きな紙袋を抱えて私の病室に来た。
「これ、天藍ちゃん宛の届け物。結構重いから、気を付けて」
……届け物?
まさか爆弾じゃないでしょうね。
冗談だとも言い切れない冗談に苦笑した。
受け取ると、予想以上の重さに手を滑らせてしまい、中身が出てきてしまった。
「わっ」
沢山の紙や冊子が辺りに散らばる。
「ほら〜言ったじゃない」
怒りもせず、あはは、と軽やかに笑って中身を拾ってくれる看護師さんに感謝しながら私も慌てて拾う。
拾った冊子の表紙の文字を視線で撫でた。
『高校1年国語 教科書』
『英語テスト対策プリント!』
『高校2年生になるあなたへ』
え……教科書?
それ以外にも、ドリルやプリント、模擬テストなども沢山あった。
もしや……差出人は先生?
でも、こんなもの一度も送られてきたことがないし、そんな気の回る先生だった覚えもない。
「はい、全部拾えたわよ」
「あっ、ありがとうございます」
ぎこちないお辞儀をして、紙袋をもう一度、今度は落とさないようにぎゅっと抱えた。
「あの……これ、誰からとか、教えてもらえますか」
すると、看護師さんは、うーん、と人差し指を顎に当て、斜め上を見、やがて私のほうに向き直って言った。
「タチバナルリって人からだよっ」
語尾に音符が付きそうな勢いで言い、なにやら意味ありげにウインクしてきた。
タチバナルリ?
……そんな名前、見たことも聞いたこともない。
ますます謎は深まるばかりだ。
どんな漢字ですか、と聞く前に看護師さんが高く明るく、キャピキャピした雰囲気でグーサインを送ってきた。
「じゃあね、天藍ちゃん。頑張って!」
「え……?あ、ありがとうございます……?」
看護師さんの雰囲気にタジタジするばかりで、タチバナルリについて、なにも聞き出すことができなかった。
……そんな人、クラスにもいなかった気がする。
何とも言えない予感と、看護師さんのウインクがやけに胸に残って仕方がなかった。



