「……!」

何も言えなかった。

涙だけが止まらない。

あの小さな体でここまで考えてくれていたなんて。

動画の中の笑顔が心に染みて、流れていく。

「な?これでもう、死にたいなんて、言うなよ」

「……ごめん」

私の声も遥斗の声も掠れていて、涙でぼやけた視界で朧げに遥斗の像を結んだ。

「遥斗、そこ退いて」

「え……?うん」

私と遥斗がぼろぼろ泣いているのを見兼ねてか、橘くんが遥斗に指示した。

……そうだ、このクッションみたいなのも消防士の人が片付けないといけないよね。

立ち上がろうとすると、右手に鋭い痛みが走った。

この痛みは……。

やはり、右手を橘くんに引かれていた。

私はそのまま何か硬くて温かいものに包まれた。

その温かみにまた涙腺が緩んで、悲しみを零していく。

その温かいものが橘くんだと理解するまでに、時間はそれほど要さなかった。

「ごめ……わた、し、橘くん、怒鳴って……」

私は、私の太陽を失って荒んだ心をどうすればいいかわからなかったんだ。

自分の受けた大きな傷を受け入れたくなくて、それを全て投げだそうとしていた。

ただの弱虫。

利かん気な子供。

だから、反論されれば、されるほどに、現実を知らされているように感じて、あんなに反発していたんだ。

橘くんの言う通り、私の行ったことは亡くなった方を侮辱する最低の行為。

自分の意思関係なく、その生涯を閉ざされた人だっているのに。

命は、自由であり、義務がある。

自由に生きれる代わりに、どんなに辛くてもそのときがくるまで、生きなければならない。

それが生をうけた者の責務である。

「……頑張ったな」

一瞬、涙が止まる。

……何で。

「何でそんなに、優しいの……っ」

やっぱり私は子供だ。

また涙が出てきて、橘くんの胸を濡らす。

規則的に叩かれる背中、大きな手に包まれる頭。

全て、安心する。

私に借りをつくろうって魂胆なの?

橘くんの癖に。

あんなに、私のこと怒って、嫌ってた癖に。

私だって、あんなに橘くんのこと怖がって、避けてたのに。

こんなにすぐ近づけるなんて、私もおかしい。

私は弱いのだろう。

だから、ずっと無縁だった優しさに溺れてしまっているのだろう。

「馬鹿……」

太陽は、すぐ側に沢山あったと知るまで、もう少しかかる。