……いや、やっぱり瑠璃さんなら有り得るかもしれない。
思い直し、尋ねた。
「瑠璃さん、まさかうちの学校の中まで尾けてきました?」
「ふふ、ナイショにしてね」
優しく歪んだ唇に手を当てて私にそう言った。
一体どれだけルール違反を犯せば気が済むのだ。
「お前もわかったろ、騙されてたんだよ、コイツに。不用心すぎ」
橘くんは蔑むような視線を私達に送るが、私は騙された、という風には感じられない。
騙されたというか、嘘という、少し易しいものに感じてしまう私は、お子様なのか。
「騙したなんて酷いなー」
瑠璃さんは洋画に出てくる人のようにくっと首をすくめた。
「じゃ、天藍ちゃん、お仕置きタイムね」
花開く笑顔で物騒なことを言っているような気がする。
お仕置きと言われても、悪いことをした自覚がない。
「何のお仕置きですか?」
「今日このあと勉強漬け」
……今聞いたのはお仕置きの内容じゃない!
橘くんは左右に頭を振って項垂れているが、正直私もそうしたい気分だ。
兄がふわふわしているから、弟がこんな感じになったのかな、と関係ないことを思う。
「そうじゃなくて、どうして私がお仕置きを受けないといけないんですか」
「もちろん、授業早退したからね」
「あ……」
そういえば、橘くんは瑠璃さんの正体を私にわからせるためだけに早退し、させたんだ。
今思えばそんな面倒なことしなくても、瑠璃さんの正体くらい私にバラすことはできた。
わざわざここに連れてきた目的は何だ。
……もしかして、騙してるのは橘くん?
疑いすぎか……。
「わっ!」
また右肩だけ外れそうな衝撃に襲われ、反応が鈍くなった足が無理矢理動かされている。
私の右手を引っ張っているのは、今度は瑠璃さん。
……何で二人ともこんな乱暴なのかな。
「よーし、勉強祭りといくぞー!琥珀君、君もね」
「な、おい俺は……!」
珍しく気を抜いていたのか、橘くんまでも瑠璃さんに引かれる。
……もう、どうにでもなれ!