「……え?あ、兄?」

「おい琥珀……何勝手にバラしてんだよ〜」

「うるせぇ」

なら、似ているのも納得できるけども、性格が違いすぎて信用できない

名字だって違う。

でも知成さんの気まずそうに俯いている様子はそれを事実と裏付けている。

「ていうか、お前も鈍過ぎ。頭もっと働かせろ」

橘くんが腕組みをして、高圧的に私に言う。

私みたいな凡人にはどう頑張っても気づかなかったと思う、と言いたいのは我慢しよう。

「コイツの偽名、何だったんだよ」

橘くんがイライラしてきたようで右足をパタパタ上下に動かし始めた。

「流旗、知成さん……」

「入れ替えると?」

入れ替える、とは文字の順番のことだろうか。

流旗、知成。

るばた、ちなり。

「たちばなるり……!」

遥斗の「るり兄」は単に間違えただけだったのか。

遥斗でも、そんなミスを犯すんだ。

「ご名答。僕の本名は橘瑠璃」

知成さん……じゃなくて、るりさんが人差し指を立て、ふわりと目を細める。

その仕草は、知成さんと変わりなかった。

「お前、そういうとこ。バレるのあんな嫌がってた癖に、急に翻りやがって」

「いいじゃん、もう隠す方法もなかったしね」

「それにこんなアナグラム、すぐにバレるに決まってるだろ。もうちょっと捻れ」

橘くんの説教は完全無視、瑠璃さんは私の手をとり、甘い声で自己紹介した。

「橘は琥珀と同じだからいいよね。瑠璃は、宝石の瑠璃って漢字と同じだよ。改めてよろしくね、天藍ちゃん」

優しい笑顔を間近で見せられてどぎまぎし、瑠璃さんから目を逸らす。

「お前、近づきすぎ。離れろ」

橘くんの助け舟のお陰で救われた。

瑠璃さんはどうして偽名なんて使ったのだろう。

橘なんて珍しい名字でもないし、瑠璃という名前なんて響きもきれいで上品さが漂っているではないか。

「で?目的は?」

さっきより怒気を含んだ声が甘さを打ち消した。

「何の?」

それでもさらりと返答できる瑠璃さんはやはり慣れているのかな、などと思う。

「わかってんだろ。尾けてきた理由だ」

「うーん、今はヒミツ」

瑠璃さんが弾けるウインクを橘くんに飛ばすと、橘くんからものすごい禍々しいオーラが放たれた。

わー……。

「でもどうして僕が尾けてるってわかったの?」

この人は橘くんのオーラを感じられていないのだろうか、空気読めなさすぎる。

案の定、橘くんが若干爆発した。

「わかるに決まってるだろっ。あんな物音立てられたら嫌でも気づく。尾行下手くそかっ」

物音……それも不自然なものといえば、私が問い詰められているときにした、ガン、という音、それと植木が擦れ合う音。

でもあそこはうちの学校の敷地内だ。

まさかとは思うが、侵入したなんてことは、あるまい。