そのまま胸を押され、派手に後ろへ転んでしまった。
椅子と床と私がぶつかり合う音に、クラス中の視線がこちらへ向かう。
「被害者面してんじゃねーよ。お前に傷つけられた人がいるってーの」
「うっ……」
転んだ私のお腹を汚い上靴でえぐり、胃が圧迫される。
「いい加減分かったらどうなのよ。早く消えて?ねえ、消えてほしいよね?このデリカシーの欠片もない女」
「ほんとほんと」
「何で澄ました顔でここに入ってこれたんだろうね」
それはお前だろうがと突っ込んでいる余裕はなく、高田さんの呼びかけに応じた何人かがイジメに参戦してきた。
残りは、哀れみの視線。
心は、自分なんて要らない人間だと自覚しているから今更何も感じないが、体は自分では制御できない。
いつかは限界がくる。
それに、病院から退院できたばかりで、体力も塵ほどにしかないだろう。
痛い。
「おい」
透明感のある声が私と高田さんの険悪な空気を断った。
それが誰なのか、薄々わかっているが首がそちらに向くのを拒否している。
「高田、そいつ貸せ」
「やだ」
強気な発言とは裏腹に、私を押さえつける足が緩んだ。
「……」
「いいわ、その代わり5分だけね」
高飛車な口調だが、語尾が明らかに揺らいでいる。
やはり、橘くんなのだ。
高田さんの足や皆の拳から解放されると、机と椅子を直し、全身の埃を払った。
「ついて来い」
高圧的な言葉に足が竦むのをなんとか抑え、ロボットのようにかたかたと、大きな背中についていった。
私の背中に刺さる視線はいくつあるか、数えられたものではなかった。



