交錯白黒

 
発端は、学級保護者懇談会だ。

私達生徒は参加しないので、そのときの様子は知らない。

その翌日から、もともと馴染んでいたわけでは無かったが、明らかにクラスの皆がよそよそしくなった。

怪訝に思ったが、特に仲良しな友達がいたわけでもないし、学校生活に支障をきたすほど不快ではなかったので放置していた。

その理由がわかったのは、それから1週間後くらいだっただろうか。

例の高田さんが突然話しかけてきたのだ。

「ねえねえ如月さん」

この頃の高田さんの声はまだおとなしかったと思う。

「如月さん捨て子だって、本当なの?」
 
そんなことをズケズケと聞ける神経を今なら疑っているが、当時はそうではなかった。

驚きで喉が干からび、全身の筋肉が固まって動けなくなっていた。

「麗華のママがさ……」

どうやら、母が学級保護者懇談会のときに言ったそう。

あの糞婆、と本気で恨んだ。

そうなのだ。

私は捨て子なのだ。

母は生涯隠し通すつもりだったようだが、父が私を叱ったときにぽろりと呆気なく漏らした。

だから、遥斗とも血が繋がっていない。

「気にしなくていいよ。如月さんが捨て子でも、優しくて、良い子なのは、皆知ってるから」

聖母のような仮面を被ったつもりだったのだろうか。

下手くそさに吐き気がした。
 
と、頭上に何かの気配がして突発的にそれを払う。

パチン

「触らないで」

おそらく頭を撫でようとしたのだろう。

気にしなくていい?

優しい?

良い子?

笑わせる。

私は初めっから捨て子なんてこと気にしていない。

辛いときや、嫌なことも沢山あるけど、苦痛ではなかった。

気にしているのは、そういう周りの反応なんだよ。

可哀相だという、憐れむ雰囲気の中で、少し馬鹿にするようなその態度。

私を勝手に弱くて可哀相な子と思い込んで接するその表情。

自分が優位にたつためだけの、優しさという手段を周りに示すための道具にされるのが嫌だった。

そんなの、ただの自己満足じゃねぇか。

優越感は別のとこで感じてろっての。

高田さんは私の反応が異常なことを察知したのか、愛想笑いをして消えた。

イジメは、次の日から本格的にスタートした。

仲間はずれ、無視は当然のように行われ、上靴を便器に突っ込まれたり、机に落書きされたり、陰湿なものも沢山あったし、高田さんの機嫌が悪いときなんかには暴力もふるわれた。

ただ、痛かった。

全身に青い痣ができ、お風呂に入ると身が切れたような痛みが襲うのだ。

だが、アニメや漫画、小説であるような、賢い故に陰湿で残酷なイジメでは無く、表面化もしているので、所詮、子供の不機嫌なときの憂さ晴らし程度のものなのだろう。

そう思えば、彼女達はなんて馬鹿なのだろう、と呆れることもできた。

でも……私は、耐えられなかった、プライドをいちいち粉砕する質の悪い視線に、物理的攻撃による精神の乱れに。

しんどいと思ってしまった。

私はもともと、思ったことをストレートに言うので知らず知らず人を傷つけ、若干恐れられていた。

グループの話し合いのときなんかに、その習性が出てしまうとメンバーは顔を見合わせ、それが私の捨て子という生い立ちのせいにした。

確かに、それは申し訳ないと思うし、自分自身でも直したい部分ではある。

だけど、捨て子だというのにこじつけてそれを非難するのは違う。

その捨て子というレッテルは昔から嫌いで、大人でさえ腫れ物に触るような態度をとる人がいた。

正義のヒーローなんか、現れやしない。

わかりきっていたけど、心の隅で信じてた、期待してた。

だから、隠してきたのに。

だから、逃げてたのに。
 
逃げるのは格好悪いし、よくないし、反感を買ってイジメが激しくなるのも予想できた。

でも、私には心臓病というハンデがあった。