たかが掃除だが、思ったより時間がかかってしまった。

窓から差し込む光が濃いオレンジ色に変化し、知成さんの頬が濃く染まる。

端正な横顔だということも相まって一つの絵画になりそうだ。

落としていた視線がゆっくりと投げかけられ、ドキリとした私は思わず目を逸らす。

「終わった〜!」

ドサリ、と隣で何かが倒れ、体が反応する。   

先程までの大人っぽい知成さんとは打って変わり、仰向けの知成さんはいつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。

「脅かさないでください。子供じゃないんですから」

すっかり掃除されたクリーンな空気に自分の汚れた息を吐く。  

私の言葉は棘だらけだと、自分も自覚している。

でも、どうしても自然に吐き出してしまうのだ、この汚い声を。

それで、どれだけ多くのものを失ったことか。

「僕、まだ18歳なってないし、ギリ子供だよ」

私の飛ばす棘を柔らかく柔らかく受け止めて、棘を綿のように変化させてくれる知成さんには、何気に感謝している。

中々こんなタイプの人と出会ったことがないから。

私の棘を上手く返せるのは遥斗だけだと思っていたけど、遥斗も流石に棘が刺さるときがあるように思える。

だから、知成さんは本当に特殊なタイプなのだ。
 
「ギリ子供って……」

「天藍ちゃんも子供なんだから甘えても全然いいと思うよ」

「あのですね、」

……他人の家でそんなに簡単に寝転べるような人ほど子供じゃないですよ、と言おうとして遮られた。

「何なら甘えてみる?ほら、おいで」

両手を広げて、オレンジ色の光を受けたその顔は慈愛に満ちた笑顔で。

全く何なんだ、この意地悪な二面性は。

さてはこの人、かなり猫被ってたな。

「……子供なのか大人なのかはっきりさせてください」

「僕子供だって言ってるよ」

鈍いのは根本的な問題のようだ。

「いやそういうことじゃな……」

言葉の途中で、右腕に千切れたかと疑うほどに強い、ひきつるような痛みが襲う。

「いっ!」

考える暇も与えまいとしているのか、一度うつ伏せになったあと、すぐさま胴を回され、右腕を掴まれたまま仰向けの状態にされた。