「高校の内容も進めないといけないでしょ?ね?」

猫なで声で、完全に私を舐めている知成を無視し、そのまま玄関へ入った。

声を発すると棘のある言葉を吐き出しそうだったからだ。

……私のプライベートに踏み込まないで欲しい。

私には私の事情がある。

遥斗も遥斗だ。

いくら知り合いといえど、私のことを話し過ぎだ。

こんなに人に自分のことをが暴露されていることを知ると、他の人にもバラしているのではないか、と疑ってしまう。

私は空気でいいの。

存在だけで、認識されない。

それでいい。

ドス、ドスと一歩踏み込む度、体が重くなっていくような気がする。

段々と足が動かなくなって歩くスピードが遅くなっていった。

「くしゅっ」

自分の部屋を開けた瞬間、埃を吸い込んでしまい、鼻孔が刺激され、鼻を擦りながら、味気の無い部屋を見渡す。

もともと彩りの無い部屋が埃を被り、モノクロの世界がさらにくっきりと出た。

「取り敢えず、掃除、ね」

小さく呟いた私の声にも、埃が被った。

換気をしようと、滑りの悪くなった窓を開ける。

「へ?」

いきなり入ってきた新鮮な空気が、埃を巻き上げ、辺りを舞った。

窓の縁に、誰かが乗ってるのだろうか、影が確認できる。

「くしゅんっ」

「可愛いくしゃみ」

ひまわりのような笑顔で、ころころした軽い声で、そんなことを言うのはさっき振り切ったはずの知成さん。

その周りで舞い散る埃が、日光で反射してキラキラと輝いていた。