私がそう言うと、水城さんは知成さんに謝り、携帯を返して貰って大人しく家に入っていった。

……ったく、冗談を本気にするなんて。

頭が堅すぎる。

「いやー、面白い人だね〜。危うく不審者にされるところだったよ〜。何て名前なの?名刺貰えばよかった」
  
「……水樹令さんです。次同じ様なことがあれば即不審者にしますからね」

「何か今日、冷たくない?」

ぷくっ、と両頬を膨らませて私を見下ろす知成さんが何だかぶりっ子のようで……笑えてしまう。
 
知成さんって、こんなキャラだったのか。

まさか、私を笑わせにきてる? 

自分のなかに、呆れた、馬鹿にしたような笑いが湧いてきたがここで頬を緩める訳にはいかない。

「自分の家を知らないはずの人が、自分の家の前にさもいつも通っているような風貌で立っていたら気味が悪いでしょう」

「だって遥斗が」

まだこの人はぶりっ子キャラを通すつもりなのか、それともこれが素なのか。

「どんだけ遥斗と仲良いんですか」

遥斗のお節介に軽く頭痛がする。

「仲良いっていうか、天藍ちゃんを思ってだよ」

ぶりっ子キャラで笑わすことを諦めたのか、いつもの知成さんに戻り、シフォンケーキのように柔らかく笑う。

「どうせ、入院していたときと同じ様な依頼内容でしょう。学校へ行かせてとか、勉強を教えて、とか」

図星だったのか知成さんは黙り込んだ。

遥斗は私を思っての行動かもしれないけど、私にとっては迷惑でしかない。

それは、ありがた迷惑というのだ。

「私は大丈夫ですから、お帰りください」

「まあまあ、そう堅いこと言わずに」

厚かましい年寄か、と心の中で突っ込む。

知成さんと関わるようになってから、突っ込みが上手くなったと思う。

そんな能力、私には1ミリも要らないのだが。

「知成さんもそろそろ春休みが明けるでしょう。貴重な時間を使わす訳にはいきません」

「大丈ー夫大丈夫!僕帰宅部だから、放課後余裕あるし!」

「え……あの、毎日来る気ですか」

「もちろん」

知成さんが微笑むと同時に、包み込むような暖かい風が私達の周りを通り抜けた。

「ま、毎日?」

「毎日」

「遥斗ぉ……」

ぎりぎりと皮膚と皮膚が擦れる音が聞こえるまで自分の手を握りしめた。