「……って、何でここにいるんですか?」

見慣れた、洋風のレンガ造りの建物の前に佇んでいた人に冷ややかに突っ込みを入れた。

「あ、やっほ。おかえりー」

冷め過ぎて恐怖すら感じている私と、何の感情も無いような秘書さんが、春風に揺れる傷んだ金髪を見つめる。

「お知り合いの方でしょうか」

「不審者ですね。今すぐ110番お願いします」

「ちょっと天藍ちゃん!」

自分のしたことを分かってるいないのか、突っ込んできた知成さんに、ズカズカと詰め寄り、問い正した。

「何で知成さんが私の家を知ってるんですか。何の用でここに来たんですか」

「そんなに怒らないでよ〜」

ヘラヘラと受け答えする流旗さんに更に怒りが溜まる。

……気持ち悪いでしょうが、自分の家知られてたら。

「質問の答えになってませんっ」
 
「痛っ」

爪の伸びた中指で思い切りデコピンしてやり、少し気分が爽快になる。

端正な顔立ちをしているのに、こんな性格だと女の子も近寄ってこないだろう。

「もしもし。警察の方ですか。あのですね、」

堅く、機械的な声が表す内容に驚き、その方向へ視線をやる。

……わ、馬鹿!

水城さんが、警察に電話をしている。

急いで取り上げるべく、私は手を伸ばしながら一歩踏み出した。

だが、私の倍程の速さの物体が隣を駆け抜け、その速さに思わず動きが止まる。

私は唖然とし、その間に知成さんが水城さんの携帯を取り上げ、プツリと切った。

「ふう〜、危ない危ない」

知成さんは、運動神経も良いのか。

そんな単純な感想しか出てこなかったが、隣を新幹線が通過したのか、というくらい速かった。

女の子が近寄らないなどと言ったが、前言撤回だ。

文武両道、容姿端麗、これは周りは女の子で溢れるだろう。
  
「警察に通報しますので、携帯を返してください」

「僕は不審者じゃないよ〜」

「ですが天藍さんが……」

「それは天藍ちゃんの冗談だよ。ね、天藍ちゃん?」

「え……?あ、はい」

呆然自失状態だったこと、突然振られたことにより反応が遅れた。

「何その曖昧な反応〜!」

「では、通報させて頂きますので」
 
「しないで!?そんな丁寧に通報するとか言わないで!?」

そろそろ知成さんが可哀想になってきたので、訂正してあげよう。

「水城さん、その人不審者じゃないので、通報しないでください。冗談言ってすみませんでした。先に家入っておいてください」