生で見上げるブルーは、一点の曇りも無く、とても清々しくて吸い込まれそうだ。
 
純粋すぎて、眩しかった。

木々は淡い桃色に染まり、活き活きと輝いている。

柔らかく、暖かい風に連られて桜が舞い、私達を歓迎しているように見えた。

痛い程綺麗なブルーが、優しいピンクで中和され、息を飲む程、美しい光景になる。

希望に満ち溢れたこの季節。

皆、前に進もうとしている。

「橘家」と達筆な字で彫られた墓石の前に菊を添えた。

合掌をして、目を瞑る。

8年間も此処にこれなかった、罪から逃げた臆病者でごめんなさい。

騙してごめんなさい。

傷つけてごめんなさい。

怒らせて、ごめんなさい。  

ビュオ、と春にしては強い風が、私の黒髪を巻き上げた。

「……ごめん、謝ってばっかね」

本当は、ありがとうで溢れてる。

無気力という殻に閉じ込められてた私を出してくれてありがとう。

一緒に過ごしてくれてありがとう。

昔の私に戻してくれて、ありがとう。

沢山、ピンチを救ってくれてありがとう。

私の命を……何度も救ってくれてありがとう。  


「大好きだよ」


私はくるり、と墓石に背中を向けると、左胸のあたりをぎゅっと握った。

瑠璃さんは温かい眼差しで私の様子を見守っている。

私は笑顔を作って見せた。

君が一生を懸けて繋いでくれた命を私が。

──いや、きみと二人で。

精一杯、生ききるから。

私に、勇気を、未来を、希望を、命を。

沢山のものを与えてくれた。

もう、触れることすらできないきみに、恩返しはできない。

だから、今度は私が誰かに繋ぐ番。

瞳から、一滴の涙が落ちた。

それは、温かく、ゆっくりと私の頬を伝う。

私はそれを拭おうとせず、顎から離れるのを待った。

まだ心に残る悲しみを、全て吸い込み、そのまま落ちてくれることを願って。

最後の涙を見届けると、力強く、前進への一歩を地面に打ち付けた。

こんな罪人でも、汚れた白でも、好いてくれて、愛してくれて、ありがとう。

でも、君とはずっとすれ違ってばっかりだったね。

近づいたと思えば、隣を通り過ぎていた。

……きみがいないのが、すごく寂しくて。

悔しくて。

悲しくて。

もどかしい。

「日記帳の最後のページ、読んだわよ」

ホント、狡いわよね、私に負けないくらい。


『如月、ずっと前から大好きだ。
 恥ずかしくて、言える気がしねぇな』