「田中さん、次の患者さんお通しして」

「はい、如月先生」

次の患者さんは、南田愛ちゃん、7歳、拡張型心筋症、か。

目の奥までツンと差し込んでくるような機械的な光が頭を痛くさせる。

慢性的な偏頭痛と相まって、PC用眼鏡をしていても、脳がガンガンする。

目の前の電子カルテとにらめっこしていると、お母さんと患者さんが入ってきた。

愛ちゃんの方は目を真っ赤にして、鼻水を垂らしている。

恐らくいやいや連れて来られたのだろう。

「ごめんなさい、遅くなって……この子が病院に行くのを嫌がってしまって」

母親のほうが申し訳なさそうに眉を下げる。

「いえ、お気になさらないでください」

よくあることだ。

「愛、どうせ死ぬんでしょ。そう言えば良いのに、大人は嘘ばっかり。意味ないなら、こんなきっつい治療なんて受けたくない!」

「コラ、愛」

母親が嗜めるが、子供の強気な態度は揺らがない。

芯の強い光の宿る光が憎しみを込めて私を射抜いた。

私はPC眼鏡をとって椅子から降り、膝立ちになって愛ちゃんと目線を合わせ、微笑んだ。

「あのね、愛ちゃん、私も愛ちゃんと同じ病気だったんだよ。ずっとちっちゃい頃から」

「え……先生も?」

私を貫いた鋭い視線が僅かに和らぐ。

「そだよ〜?心臓を他の人から貰って、今もお薬飲んだりとか、珠に検査したりして、頑張って生きてるんだ」

「他の人から心臓貰ったら、その人、死んじゃうんじゃないの……?」

不安そうに上目遣いで見てくる愛ちゃんの鼻水をティッシュで拭いながら話す。

「そうだね。亡くなった人から、ありがとうって一杯感謝して頂くんだよ。だから、皆が皆心臓を貰える訳じゃない。でもね、生きたいって願って、頑張らないと、そのチャンスは神様がくれないよ」

神様なんて、いないけど。

そんな可愛らしくないことを心の中で吐き捨てるように言った。

「うん……!わかった、愛、頑張るよ!」

さっきのふてぶてしい表情を翻し、ニカッと顔を綻ばせた。

その笑い方が千稲ちゃんと似ていて、ドキリとさせられる。

もう、あれから何年も経っているのに、その笑顔や仕草は写真に撮ったままのように、廃れない。

私はポンポン、と愛ちゃんの頭を撫でると診察を再開した。