「あのね、天藍……」
「いい。瑠璃さんから聞くわ」
大きな瞳一杯に涙を溜め、掠れた声で説明する口を開こうとした麗華の言葉をぴしゃりと断つ。
こんな揺れたままの気持ちでは、まともに話なんて聞いたら何をするかわからない。
事実を突きつけて欲しくなかったのかもしれない。
どうせ、瑠璃さんから話を聞いたって同じことだろうけど。
衝撃をダイレクトに喰らうのを遅らせただけだ。
「……っ、橘は!」
悲痛な叫びに背けた顔を彼女に戻す。
黒髪ロングがたおやかに揺れる。
彼女の瞳から、涙が一粒溢れた。
「毎日、あんたのお見舞い来てた……っ」
「……ふーん」
「だから、っ、今度、お墓参り行こ……!」
「行けたら行く」
私は感情を押し殺して、なるべく冷たく返事をした。
麗華には悪いけど、そうでもしないと混乱した頭のまま、暴徒化してしまいそうだ。
私がまず、すべきことは。
「天藍……?」
私は机の中の荷物を鞄に仕舞い、麗華に言い放った。
「ごめん、麗華。私帰る」
「……気をつけて」
無理矢理笑った麗華の顔を見て、まるでリレーのスタートを切るように床を蹴った。
私がまずすべきこと、それは橘瑠璃に話を聞くこと。
まともに話を聞ける保証は無いから、学校なんかにいては危ないのだ。
さて、話を聞く以前に彼が今どこにいるか、ということなのだが、今は平日の真っ昼間。
普通なら彼は怜悧高校に……。
いや違う。
順当に行けば彼は今大学生だ。
ただ、彼がどこの大学か、浪人したのか、はたまた進学などせず、就職したのか私は知らない。
こうなれば、彼の帰りを待つ他無い。
橘家で待っているしかないだろう。