「皆さん、おはようございます」
「おはよーございまーす」
「さて、もう高校3年生ですね。将来の進路を……」
前クラスの担任が業務的に話すのを盛大に無視し、頬杖をついて窓の外をぼうっと眺める。
時折木の枝に小鳥が止まり誰かを呼ぶように、哀しく鳴いて、飛び立っていった。
ぷっくりと膨らんだ桜の蕾の先は薄いピンクに染まり、根本は新緑に覆われている。
隣ではなくなった橘くんの席は、今日は空席。
只の風邪かもしれないのに、只の用事かもしれないのに、そのオンボロな木のデスクを直視できない。
どうも、彼の笑顔が脳裏にちらついて。
死んだ訳でもないのに、この一年の思い出が走馬灯のように流れていくから、怖くて見れない。
しかもその走馬灯の、3分の1くらいは視点が私ではなく、橘くんなのだ。
橘くんの不敵な笑みが浮かんだかと思えば、私や瑠璃さんが談笑しているシーンが過る。
終いには私の嫌味ったらしい微笑が出てきて、流石にドクンと心臓が疼いた。
駄目だ、怖すぎる。
折角奇跡的に生き繋いだのに、もうすぐ死ぬのだろうか。
そういう暗示的な、何かか?
そうは一度、思ったものの、それと同じくらいか、それ以上の嫌な感じが拭えない。
自身死の瀬戸際など、何回だって経験している、今更そんなことでこんなに動揺する筈ないのだ。
「……亡くなった橘くんの分もしっかりと頑張り――」
……は?
かくん、と頬杖が崩れ落ちた。
亡くなった、橘くんの分も?
担任の言葉を脳内で繰り返し、やっと意味を飲み込む。
まさか、何かの聞き間違いよね。
そう信じたくって、縋るように麗華を見た。
麗華。
私の聞き間違いなのよね……?
麗華は、うさぎみたいに目を真っ赤に充血させて、私を見据えていた。
微動だにしない。
それが、私の期待を裏切った証拠だった。
どういうこと……?
何で、どうして……!?
混乱した頭は思考能力を失い、呆然としていた。
そんな、冗談のつもりだったのに。
窓から流れる風に弄ばれる髪が頬に纏わり私を嘲っているかのようだった。



