「大丈夫?」

きっと堰を切れば止まらないであろう涙は、小学3年生を前にしていることからどこかの箱に閉込めた。

大丈夫と答えようとし、視界に遥斗の手首に巻き付くミサンガが目に入る。

どこかで見覚えがあったのだ。

「それ……」

「あ、このミサンガ?」

遥斗は俺を一瞥すると悲しそうに笑ってミサンガを見つめる。

「このミサンガ、凄いんだぜ。ヘアゴムみたいになってて……天藍姉の手作りで、千稲がずっとつけてた。死に際に、俺に託してきたんだ」

やはり彼女は、知っていたのか?

もしそのミサンガに毛髪などのDNAが採取できる媒体が残っていれば、恋藍のクローンだという証明ができる。

遥斗にそのミサンガ貸与を求める言葉が喉まで登ってきて直前で堪えた。

もう、いいんじゃないか?

全て明らかにしなくたって。

その度に誰かが傷ついて、涙を流すなら結局、俺を作った人間と同類になる。

そんなの、死んでも御免だ。

「どした?」

「……いや、何でもない」

俺はかぶりを振り、隠したい言葉も引き出してしまうような視線から逃れる。

「……また、天藍姉に勉強教えてやってね。瑠璃兄と、そのときは、俺も一緒に」

あいつの学力でそんな必要ねぇよ、と突っ込みつつ、俺は苦笑いしてこう答えた。

「……当たり前だろ」  












あいつを手放してたまるかよ。





 







絶対死なせねぇ。












そう強く決めた、のに。