ベッドの上に横たわり、微動だにしない彼女は眠り姫そのものだった。
日に日に変えられる花瓶の花。
彼女は目を覚まさない。
「ごめん」
今日もそれだけ告げて病室を去る。
あのとき美しかった紅葉は既に散り、不甲斐ない俺を責めるように冬の冷たい風が吹き付けた。
彼女が倒れたあの日から、何日経っただろう。
櫻子によれば、原因は持病の悪化だという。
そろそろ彼女の心臓も保たず、移植を本格的に考えなければならないそうだ。
死期直前の、小亜束千稲と同じ状態らしい。
黄金の血の彼女は、誰にでもに血を分け与えることができても、自分は同じ型の人物からしか貰えない。
まずそれが少なすぎるというのに、ドナーなど現れる筈もないだろう。
どうして如月だったんだ?
確かに彼女は俺たちを欺いた。
ほぼ一年をかけて調査してきたものを、魔違った方向に導こうとした、それは事実。
だが、彼女には彼女の信念があって、それは、俺と同じくらい長い間大切に守ってきていたのだろう。
それに対して、俺は怒るつもりは無い。
だから、彼女を救ってください、神様。
今まで辛く苦しい思いを、彼女もしてきました。
それの最期の仕打ちがこれですか?
あまりにも、酷い。
どうして、一人の人に不幸を重ねるのだろうか?
如月じゃなくていいじゃないか。
――いや、違うのかもしれない。
心臓病の人にストレスは厳禁だと、よく言うだろう。
あの日あのときあの瞬間、俺は物凄い量と質のストレスを如月にかけていたかもしれない。
俺が如月のストレッサーになっていたのだとしたら。
唇をぐっと噛む。
今までに感じたことのない激しい頭痛がする。
これからのことを考えて無理に推理を押し進めた筈なのに、それがかえって極度なストレスになったのだとしたら、如月がこんな状態になったのは――。
俺のせいだ。
口の中にじんわりと鉄の嫌な味がした。