「はぁっ、急いでっ、琥珀っ」

「んなこと言われたって……現役陸上部に敵う訳ねぇだろ」

泣き出しそうな高田さんをなんとか宥めて、夕闇の中、彼女の家に向かって全力疾走中だ。

天藍ちゃんは居場所を見つけられず、取り敢えずラインだけは入れておいたが既読してるかはわからない。

xの連絡内容は聞いていない。

しかし、おそらく……僕らのしたこと、つまり高田さんがお父様の情報を少し僕らに流したことがバレたのではないか。

逸る気持ちと体の速度が追いついてこない。

足の回りが悪い、地面を踏むたびつま先と足首が絡まりそうになる。

胸を掻きむしりたくなるほどのもどかしさを解消する術が見つからず、ただ懸命に走った。

「高田さん!!高田さん?いる!?僕だよ、瑠璃だよ!」

近所迷惑なども気にせずに玄関の厳重そうな扉を叩く。

外見は何も問題があるようには見えないが、もし中で何かが起きていたら。

僕の体だけ重力という呪縛から解き放たれたかのように、薄気味悪く浮遊感があった。

やがて、かちゃりとドアがあき、不安げに隙間から外の様子を見た高田さんは、僕の顔が視界に入ると少し安堵した表情になって僕を入れてくれた。

僕も同様に、安堵しすぎて立っているかわからないほどだった。

琥珀は、重い靴音と荒い息継ぎを連れて、後でやってきた。

もうそろそろ涼しい秋なのに、額から、こめかみから、首筋から汗を滴らせており、僕も額に手を当ててみる。

湿ってはいなかった。

「……xから電話があったんです。話したな、と」

彼女はそう切り出した。

全体的に震えがかっていて、恐怖のほどがこれほどだったと思い知らされる。

「それで?」

琥珀が若干高圧的な態度で尋ねると膝の上で重ねていた手をぎゅっと握って弱々しい声で彼女は返事をした。

「許さない、って……」

「具体的な脅し文句は無かった訳だ」

恐怖に打ち震えている女の子を前に、あまりにも淡々としていているので僕が肩をつついて少し嗜める。

琥珀は僕をちらりと見、唇をきゅっと引き締めた。

「それから何か被害はある?」

高田さんが首を横に振る。

長い黒髪がしゃらんと揺れた。