「でも、あの若さで、よ?可能性はかなり低いんじゃない?」

「櫻子の秘書についている目的が俺らの監視、だったらどうする?」

「何で人のことをそんなに疑えるのよ……!」

天藍ちゃんは前のめりになろうとして、思いとどまった様子で咳払いをし、細く、長い溜息を吐いた。

そしてすくっと立ち上がると、頭を左右に振って僕らのほうを見ずに、抑揚のない声で言う。

「頭冷やしてきます」

その言葉に浮ついた声で返事をした。
 
なぜなら、彼女が先程までの口論を思い出し、繰り返しにならないよう一旦心を落ち着かせに行ったのではないかとヒヤヒヤしていたからだ。 

トン、と襖が閉まる音がして彼女が出ていったのを確認し、口を開く。

「琥珀、問題山積みだよ。どっからいくの?」

「ま、最優先はxの処理だわな。そのあと、秘書の事情聴取だ」
 
「でも天藍ちゃんは……?」

ここまできて仲がギスギスするなんて冗談じゃない。

本当は、血が繋がっている兄弟なんだから。
 
そう言いたいけれど、誰も触れないから、僕も触れられない。

それを気にして触らないようにしている人がいるのなら、傷つけないために僕は言葉を閉じ込める。

なんて、善人ぶって、本当は臆病なだけなのだけれど。

「仕方なくね?俺は俺、あいつはあいつ」

「でも……」
  
僕が反論の口を開きかけたとき、ポケットでスマホが震えた。

取り出してみると、知らない番号からの電話がかかってきていて、一人、相手の目星をつけながら通話ボタンをタップする。

「瑠璃、さん……ですか?高田です、高田麗華です」

電話越しでもよく響く高い声が部屋に突き抜ける。

琥珀も内容がうっすら聞こえているようで、不機嫌そうに眉根を寄せた。

「橘瑠璃です。どうしたの?」

「たすけて……」

今にも折れてしまいそうなか細い声。

突然の変容に僕の心臓が嫌な予感に跳ね、スマホを握る手に力がこもる。

「xから……電話がきたんです」