早口でまくし立てたせいだろうか、琥珀が、馬鹿野郎、とでも言うような厳しい視線をぶつけてきている。
そんな不自然だったのだろうか。
「瑠璃さん、私が橘くん嫌ってたこと知ってたんですか」
「え、ま、そりゃあ、一目瞭然でしょ」
異常に琥珀のことを意識していたのは手に取るようにわかって、しかもそれが好意ではなくかなり強い敵意だと気づいたときには震えた。
3人でいるときなんか、板挟みの僕、物凄く気まずかった。
「あ、でも今は両想いなのも気づい……」
ぱしっ。
顔の下半分が温もりに包まれる、正しく表現すれば叩かれて塞がれた状態だ。
今僕の唇を覆う掌は琥珀のものと、その下に天藍ちゃんのものがある。
「瑠璃お前っ、何てこといいやがんだっ」
「そういう思考回路になってんですか!」
仕返しだよ、と僕は挑発するようにねばっと笑う。
無論、唇の形は見えないだろうが、目の形で勘のいい二人は察したのだろう、苦々しげにこちらを睨み、手を離した。
「天藍ちゃんって、暗記得意なの?」
「どちらかというと苦手ですけど、それが何か」
僕は彼女のよくないところを2度も刺激したらしく、僕への態度が刺々しくなっている。
語尾が研ぎ澄まされている。
「いや、だって……僕の正体疑ったのだってさ、僕が自己紹介してもらう前に天藍ちゃんを名前で呼んだからでしょ?でも天藍ちゃんあのとき結構動揺してたから、気づいて、しかも覚えてたってのが凄いなぁって思って」
明らかに言い訳臭いが、これは本心である。
まさか自分がそんなミスをしていないだろう、と心底慢心していたので天藍ちゃんに指摘されて初めて気づいた。
「はあ……」
天藍ちゃんの視線が痛い。
見透かされているようで背筋に汗がだらだらと流れているような気がした。
あの切れ長の目でジト目は本当にキツイ。
「あのですね、知らない人から突然下の名前で呼ばれたら幾ら動揺していても気づくでしょう。もし気づかない人がいるなら、相当なポンコツですよ。瑠璃さんならあり得るのかもしれませんが」
どうやら僕らの誤魔化しには勘付いていないようで、僕の言い訳がましい言葉に容赦なく太刀を入れてくる。
中々切れ味がよろしいようだが、天藍ちゃんほどの切れ者が僕らのまやかしに気づいていないだけでよしとしよう。
「返事が無いってことは、瑠璃さんは気づかなかった経験があるんですね」



