その鬼のような形相を思い浮かべ、身震いしてから冷静になる。
……橘くんと会う機会なんて、今はほとんど無いし、私が言わなければ丸く収まる。
隠すことを心に決め、その場限りで恐怖を鎮めた。
……そういえば、何で橘くんは教科書何で持ってきたんだろう?
記憶を手繰り寄せれば、「見れば分かるだろ、アホ」という言葉が蘇り、その意味を探り出すと、嫌な予感から冷や汗が滲み出る。
揺れる甲高い声、全身へと回る痺れるような痛み。
……もしかして、あの紙袋に何か……。
知成さんが一度中身を出したとはいえ、どこに何がどうされているか、私は見ていないし、分からない。
どうしよう、知成さんにあれを勘付かれたら。
学校に行けないと、知られたら。
……絶対引かれるに決まっている。
吐き気が込み上げてきて、喉の奥がツンと痛み、どうしようもないのに、後悔に叫びたくなった。
もしも私が、知成さんが話を聞かなかったとき、もっと強く話を止めていれば。
ちゃんと、隅々まで確認していれば。
ああ、今更こんなことに気付くなんて、私、トロすぎる。
今すぐ取り返して中身を確認したい。
正に喉から手が出るほどもどかしい、そんな感じだ。
「あーあーあーもう!」
すっかり伸び切っている自分の毛髪を掻き回し、自分への苛立ちをそこで紛らせようとする。
「あ……天藍姉?」
「え?」
ドアを少しだけ開けて、ひょこっと丸い顔を覗かせている遥斗がいた。
「何してんの?」
呆れて、馬鹿にしているようにもとれる大人っぽい声、遥斗はただの子供に感じられない。
「別に……それよりノックくらいしなさいよ、失礼ね」
声が震えていないだろうか。
震えていても誤魔化せるよう、喉の辺りに手を添えた。
「したけど返事なかったもん」
……え、嘘。
遥斗は唇を尖らせ、ズボンのポケットに手を突っ込みながら私の病室へ入り、さっきまで知成さんが座っていた椅子へ腰掛けた。
その行動も、やはり小学生3年生には見えない。
「何かこの椅子、温くね?誰か来たか?」
なんて勘が鋭いのだろう、ある意味怖いのだが。
「さっきまで知成さんがいたからね」



