「お前の親父に聞きたいことがある」

琥珀が要件を伝えた瞬間、高田さんを取り巻く凛とした雰囲気が一気に崩れた。

瞳が不安げに泳ぎ、顔からは血の気が引いて真っ青になり、今にも卒倒してしまいそうだ。 

琥珀も天藍ちゃんもその異変に気づいたのか、3人で視線を交わし合う。
 
「か……帰って」

水気のない悲痛な訴えに引っ張られるように、高田さんを見た。

ようやく動かしたような赤い唇は異様なまでに痙攣していた。

おかしい。

この過剰な反応は、何が原因なのだ?

「おいおい、そりゃねーぜ高田」

琥珀が立ち上がり、僕らをも圧倒してしまうような大きな声で高田さんを上から見下ろす。

「俺の兄が一生の覚悟を背負ってここまで来たのによー」

「こは……」

僕が不信感を覚え口を開こうとすると、それは鋭利すぎる睨みによって塞がれた。

どういうことだ、琥珀は何を狙っているのだ。

様々な説が頭の中に浮かんでは成り立たず、消えていく。

暫く琥珀を観察していると、彼が窓の外や部屋の隅に注意を払っていることに気づいた。

声からはわかり辛いが、視線や意識は明らかに高田さんから外れている。

これは、もしかして。

「そうだよ。僕は相当の覚悟でここに来ているんだ。そのために、琥珀や天藍ちゃんも連れてきたのに、お義父さんと話せないのかい?」  

高田さんの肩の上下運動が激しくなり、首筋やこめかみからは脂汗が浮かんでいる。

そろそろ限界か。

僕は籐椅子から降り、ポケットからメモ用紙とシャープペンを取り出し、紙の上でシャー芯を滑らせてから高田さんに渡した。

彼女は怯えたように少し飛び跳ね、逃げ場のない籐椅子の背もたれに縋るように抱きつく。

僕は微笑んで口パクで大丈夫、と象った。

彼女は恐る恐る籐椅子を降り、机に置かれたメモ用紙をみるとはっとしたように縋る先を僕の瞳に変更する。
 
続いて琥珀を見上げ、琥珀の貴重な微笑みを見ると、赤く染まった目の縁を人差し指で拭い、シャーペンを取った。

天藍ちゃんはというと、彼女にしては珍しく状況を飲み込めていないようで怪訝そうに僕らのやり取りを見ている。

「人数が多いからって、そう簡単にお父さんが出てくるなんて思わないでよ」

高田さんは忙しなくシャーペンを動かしながら僕らに話しを合わせてくれた。