いきなり見知らぬ男が女の子の家にあがるのは如何なものかと思われ、玄関で足を上げるのを躊躇っていたが、高田さんが上がるように催促してくれたので、足を踏み入れた。

先に宣言しておく、僕は非常に気持ち悪い変態発言をする。

天藍ちゃんの家に入ったときも思ったが、女の子の家って皆こうもいい匂いがするものなのか。

僕の家もジャスミンの香水の匂いがするという自覚はあるが、それとは少し違うような気がする。

恥晒しもここまでにしておこうか。

リビングに入るとそこには、白い、向う脛あたりまでの高さの机に、洋風の柄があしらわれた座面の籐椅子がそれを囲むように置かれている。

シンプルだが、欧風のインテリアが異国の地の家に来たような高揚を掻き立てた。

「そんな大人数で何しに来たの?」

お盆に麦茶を載せてきた高田さんがどこか落ち着かない様子で僕達に問う。

こうしてみると、この子も天藍ちゃんに負けず劣らずかなりの美人だ。

猫のようなアーモンド形の瞳に、ストリートの長い黒髪。

真っ赤な唇はいかにも気が強そうな雰囲気を漂わせているが、かといって不快とは感じない。

「そっちの黒髪の優しそうな子は知らないし」

遠慮がちにちらりと視線を向けられた視線には、警戒の色がうっすらと出ていた。

この子は身長が高めのようで、男にしては身長の低い僕と比べると同じぐらいの頭の位置にくる。

先程の彼女の僕の指し方から、どうやら僕は年下に見られているらしいことがわかった。

「突然押しかけてごめんね。僕は橘瑠璃と言います。琥珀の兄です。よろしくね」

「あ、兄!?」

麦茶を机に並べ終え、籐椅子に腰掛けていた高田さんが飛び跳ねないばかりに驚く。

「へっへー、びっくりした?」

「すみません、てっきり年下かと……」

「気にしないで、よくあることだし」 

自分で言っておいてだが、幼く見られるのは僕に落ち着きや威厳が感じられないからではないのか。

身長は特に関係無かったりして、なんて思うと苦笑するしかない。
 
「……本題だが」

低い声が和んでいた雰囲気を凍結させ、引き締めた。

まるで、ぴりっと四人の間に電流が走ったようだった。

僕にはこういう、年相応の重厚な雰囲気と統率力が無いのだろう。

反対に、琥珀には年以上の落ち着きと安心感がある。