プルルルル……。

勉強の最中、家の固定電話がなり始め、少し気を悪くしながらかかってきた番号の表示を見た。

もし宣伝だったら邪魔すんなと怒鳴ってやろうか。

だが、そこには公衆電話の文字。

父や母からだと、携帯からかけてくる筈だが、どういうことだろう。

受話器を手にするか迷っていると、着信音がぷつりと切れた。

間違い電話か、と安堵し、勉強を再開しようとすると、また、鳴り出す。

勿論表示は公衆電話。

あたしは間違い電話でないことを悟り、恐る恐る受話器を手にした。

「はい、もしもし。高田ですが」

「高田麗華か?」

あたしの問いに受け答えした受話器の向こう側の人物の声は、抑揚がなく、機械的である。

きっと変声機か何かで声を変えているのだろう、男か女かも、若者か老人かも検討がつかない。

「そう、ですけど」

「いいか、よく聞け。貴様はこれから、誰にも貴様の父親のことを話してはならない。会いたいという輩が来ても父親と接触させるな」

「はぁ、お言葉ですが……」

確かに父は医者で、病院を設立した経験もあり、恨まれやすい存在ではあるが、こんな解りやすいイタズラ電話に引っかかるはずもない。

だが、親切に一個だけ訂正事項を伝えようとすると、それは地を這うような声に遮られた。

「さもなくばお前の周りの人間を全員殺す」

そんな脅しに引っかかるものですか、そう電話口に怒鳴ろうとした瞬間。

「火事だーー!!」

男の叫びが窓から飛び込んできた。

慌てて子機を耳にあてたまま、窓の外をみると、道路と歩道の境目に等間隔に植えられている木の根本から、赤い閃光と白い煙がそれに巻き付くようにもくもくと出ていた。

「ちょっと!!これ、あんたがやったの!?」

サイレンの音が段々と近づいてきて、誰かが消防を呼んでくれたのだと安心する。

「わかっただろ?本気なんだ。今回はこの程度の小火だが、次はどんな血みどろなことが起きるがわからないぞ」

「っ!」

あたしは子機を握りしめたまま、ツーツーと冷酷に電話口から流れ出す音を聞いていた。

いつの間にか火が消し止められた木の根本は黒く、本来の薄い茶色と対比して、邪悪なものの住処のように見えた。