「それってさ……」
 
「そう。クローン作成の主犯格の疑いのある、高田華斗の娘」

「高田までクローンだってのか……」

僕の隣で大きな拳が握り締められ、節々の赤みが増し、震えてるのが見えた。

「でもそしたら、プロトタイプは誰?」

年齢も誕生日も同じ人間なんてこの世にごまんといる。

40人学級ならそのクラスには同じ誕生日のペアが二組はいる、という計算があるらしい。

プロトタイプやDNA鑑定でもしない限り、その子がクローンという判断を下すのはまだ早い。

とはいえ、父親がクローン作成に深く携わっていた、という立場がある以上、普通の人間よりもクローンの可能性が高いことは認めざるを得ない。

「わからない」

「その宝石の和名は?」

「……麗華(うるか)よ」

天藍ちゃんは言いたく無さそうに苦々しい表情をして、小さく呟いた。

「でも瑠璃さんの言うとおり、プロトタイプがわからない限りは、まだクローンだなんて断定できないわ」

「断定できねぇから疑ってんだろ。俺は高田に直接聞くつもりだぜ」

その琥珀らしからぬ辛辣な発言に時が止まったように固まる。

「ばっ……!」

「馬鹿じゃないの!?ただでさえ家庭のことで悩んでる麗華に追い打ちかけるつもり!?」

「軽蔑できる事柄ができて、すっきり離れられるかもしんねぇだろ」

「かもしれないけど、わかんないじゃない!十数年一緒にいると、たとえ嫌っていても何となく愛着が湧いたりすることもあるでしょ!それに、突然クローンだって告げられたって……受け止めきれる訳、ないじゃない」

「だったら、一生黙っておくんだな?いつ、何で高田の体が使われるか、わかんねぇけど?」

琥珀の言っていることは非道にも聞こえるが、一理ある。

彼女が成人の体に成長したとき、彼女のプロトタイプに臓器が使用されてしまうかもしれない。

そんなことなら、今真実を話してしまって逃げるほうが断然いい。

「……っ!」


「俺は、行くからな」


琥珀の言葉に揺れは無かった。

だが僕はどうしても琥珀の行動が不可解で仕方がない。

人の気持ち第一で、面にはあまり出さないかもしれないが、致命的とも言えるくらい優しくて、脆い彼がこんなリスキーなことをするなんて。

ましてや、自身がクローンという生い立ちのせいで相当苦しんできたはずなのに、恐れもせずその事実を告げようとするなんて。

「一つ条件があるわ。私と瑠璃さんも連れていくこと。いいわね?」

「勝手にしろよ」

何だか以前の琥珀に戻ったみたいで、少し怖くなった。