交錯白黒


「天藍ちゃんは面白いね〜!」

本気で、は?と言ってしまうのをは何とか堪えたが、ぽかん、としていることを隠すことはできなかった。

……何、この人、変わってる。

"そんな言い方ある?"

"人の心が無いんだよ"

"仕方ないよ。だって如月さん――だもん"

鼓膜に再生された、苦い記憶と似たような言葉が吐きかけられるのかと、てっきり思っていた。

……私が悪いんだもの。

優しすぎて、と表現していいのか、気味悪ささえ、感じ始める。 

私が余程不快そうな表情をしていたのか、知成さんはぴたりと笑うのを止めて、天使の微笑みに切り替えた。

「ごめんごめん。それでね、僕が聞きたかったのは、高校の教科書、貸してくれるかな?ってこと」

「あ、それなら家にあるので……」

確認したことはないけれど、きっと家のどこかには届いているはずだ。

「え? でもそこに……」

ゆっくりと長くしなやかな指先の軌道を辿る。

紙袋。

シワも無く、柄も無く、色も無いそれは、水彩画で描いたような淡いオレンジ色に染まっていた。

……あっ。

「あれ、」

「オッケー、じゃ、あれ、借りるね」

ひょい、と立ち上がると紙袋を回収、淡いオレンジ色は一瞬として真っ白に戻された。

薄々気付いてはいたが、知成さん、あのほんわりした雰囲気とは裏腹に、かなりのせっかちだ。

人の話を最後まで聞かない。

私は敢えて小さくため息をついて、もう一度同じことを伝えようとした。

「あの、」

「へえ、懐かしいなぁ〜!」 

「すみませ」
 
「あ〜、ここ僕苦手だった〜!」

「知成さ」

「え〜?こんな単元あったっけ〜?」

……。

知成さんは口をつぐんだ私に見向きもせず、一人で思い出に騒いでいる。

……それ、橘くんが持ってきたやつなんだけど。

鈍感さに怒りが溜まり、やがてそれは呆れとなり、ため息として出て行った。

「あ、もうこんな時間か」

知成さんが腕時計を見て、やっと静まりほっとする。

「じゃあ、スケジュール組んでくるから、またね〜!」

「ありがとうございました」

機械的に、業務的にそう言ってしまい、とん、とドアが閉まった瞬間、頭を抱え込む。

……どうしよう、橘くんの教科書、渡してしまった……。

きっと、すごい剣幕で怒られるに違いない。