「……珊瑚は、何故作られたのですか」

元々冷え切っていた部屋の温度がさらに降下する。
 
しかし体の芯は燃えるように熱い気がして、この矛盾を解決する術は無いものかと思った。

「ストレートに聞くわね。恐らく、研究よ。あと、希少血液の採取のため。あの血がもっと沢山があれば、今より多くの人を救えるから。だけど、それはきっと表向きで、実情は金と名誉だろうって本人が言っていたわ」

「そう、ですか……」

「あ、そのことなんだけど……」

私が口を挟むと狭い部屋中の視線が集まった。

「彼、骨髄の提供したこと、ある?」
 
初めは私が何を言ってるのかわからない、という状態だったが、医学に精通する二人はすぐに理解ができたようだ。

「あるわよ。その話、聞いたもの」

母が答える。

橘くんは訳がわからないというように足を揺すっていた。

「どういうことだよ」

「骨髄移植をすると、血液型が変わることがあるんだ。天藍ちゃんは骨髄移植を経験したことがあるんだよね?」

「はい」

「そのときのドナーが珊瑚だった。血縁関係があると適合しやすいし、あの希少血液型ならほぼ間違い、ないと思う、よ」

「……あの親父」

「……っ」

声を詰まらせた瑠璃さんはまだ何か蟠りがあるように眉根を寄せて、俯いて瞳孔を震わせる。

もしかして、さっきの質問は本当にしたい質問では無かった?

本当は別に聞きたいことがあるが、それとは全く関係無いことを言ってしまう、よく得る話しだ。

瑠璃さん程の推理力があれば、目的なんて聞かなくたってわかる筈。

「すみません、さっきの嘘です。知ってました。本当は……もう一体のクローンについてです。僕達は何も聞いていません。だから、教えてください」

爆発してしまいそうな鼓動を無表情で取り繕い、櫻子の涙で腫れた顔を見つめる。

すると彼女は白衣のポケットを抑え、少し微笑んでやんわりとこう言った。

「……ごめんなさい、今、仕事の電話かかってきて。今日はこれで失礼するわ」

それまで櫻子の服装など気に留めていなかったが、白衣を着用しているところをみると仕事を抜けてきたのだろう。

そう考えれば、私は不自然だとは思わないが、偶然すぎるタイミングに二人は大きな疑念を抱いたようだ。

霊安室を出た後、色々推測していた。

「……琥珀はさ、あのタイミング、本当に偶然だったと思う?」

「な訳ねーだろ。ポケット抑えたとき、何の膨らみも出てなかった。スマホどころか、何も入っちゃいねぇよ」

「そうだよね。もう一人のクローンに何か隠されてるんだね、きっと。そしたら、琥珀と天藍ちゃんと同年代か」

「そうだな……櫻子か珊瑚の監視下に置いておくのが一番安全だと思うから、意外と身近な人物の可能性が高いかもな」

「確かにねぇ……あんまり関わりが無いと、クローン何かあったときに、対応が難しいからね……」