流旗さんは何も言わず、またゆっくりと微笑むと形の良い唇を開いた。
「怜悧高校にはね、僕よりもっともっとすごい奴らばっかりいるよ。……まあ、怜悧高校じゃなくても天才はいるんだけどね」
声が高いことがクラスの女子を連想させていたが、流旗さんは柔らかい物腰だから、ずっとずっと話しやすい。
今までの自分とは比べられないほど、滑らかに言葉が紡がれていた。
***
それからというもの、流旗さんは殆ど毎日私に勉強を教えてくれ、その後、雑談をするのも日課になっていた。
幾日も過ごす内に、流旗さんは、掴めないように不思議で、柔らかくて、澄んでいて、懐かしいような、天使のような人だと、最初の印象がくっきりと輪郭を現した。
でも、どこか浮遊感があり、まるで、仮面を被っているような、うまくつかめない感じがする。
私が一番驚いた出来事は、「知成って呼んでいよ〜」と言い出したことだった。
私が、「いや、さ、流石にそれは……」と両手を顔の前で振れば、「じゃあ、『流旗さん』なんてくすぐったいし、堅いからさ、せめて好きなように呼んでよ」なんて、頬に僅かに紅が差した顔で微笑む。
その顔は、心が浄化されるというか、半強制的で、困ってしまう。
だから私は、間をとって、「知成さん」と呼ぶことにした。
初めの内は恥ずかしくて、声が上擦ったり、詰まってしまったりしたけれど、よく考えれば私は初対面から「天藍ちゃん」呼びだ。
そう思えば、私は何を恥ずかしがっていたんだよ、と自分自身に呆れる。
何がともあれ、私が言いたかったのは、流旗さんがフレンドリーだから、学校でも人気者に違いないということ。
……きっと、周りには人と笑顔で絶えないんだろうなぁ。
でも、イマイチ知成さんの制服姿が思い浮かばない。
怜悧高校の制服は、真っ黒のブレザーに小豆色のネクタイ。
時折見かけるから、知っていたんだけど……あの金髪が、その厳かな、上品な雰囲気をぶち壊してしまうから、しっくりこない。
本当、黒髪にした方がいいと思う、と私は苦笑いするだけで、本人には伝えない。
……だって、知成さん、傷つけちゃうかもだし。
知成さんのお陰で、復習程度とはいえ、この短い間に中学課程の勉強が殆ど終えられた。
知成さん、勉強の教え方が天才的に上手で、先生なんかよりわかりやすい。
関係代名詞だとか、因数分解だとか、hpaだとか、北大西洋条約機構だとか、懐かしい内容盛り沢山だったけれど、さらに理解を深めることができた。
これから、ようやく高校生の内容に入る。



