「病室に行ってみて吃驚。君がいないんだもん。ま、でも香水の匂いが残ってたから何となく察したけどね」

テレビのバラエティ番組は、ゲストとして招待されていた俳優さんと女優さんが番宣をし、静かにニュース番組へと移行した。

「まさか、あいつにそんな勇気があるとは思わなかったから、本当に状況が飲み込めなかった。琥珀はああ見えて物凄く弱いからね」

「知ってますよ」

目に笑みを湛えて褐色の瑠璃さんを見つめる。

彼も何かを企むように目と唇を変形させて艶っぽく笑った。

「流石天藍ちゃん」

甘い声は天使そのものだったが、ひねくれ者の私は内側に悪魔が棲んでいるのではないか、と僅かながら疑った。

「琥珀は……君と出会ってから、大分、変わったよ。ありがとうね」

「いえ……私こそ、ですよ」

チクリと罪悪感が胸を突いた。

私は純白じゃない。

彼は、純黒だから。

その黒を傷つけないためにも……この想いは破棄しなければならないのに。

甘やかな匂いに連れて行かれれば、溶けてしまいそうな神々しい蜜のある壺に誘われ、呑まれ、甘美ともいえるその毒に依存してしまうだろう。

それに彼の持つ、優しく精悍な黒が、失われてしまう。

夜空のようにはいかないのだ。

そうわかっていても……彼の一挙一動に心臓が跳ねる、踊る。

調査が終わったら、私は彼から距離をとろう。

……私は狡い女だ。