俺は何て情けないのだろう。

裏切り者の、狡い罪人の癖に、救われて、救われて、救われてばかりで。

俺は奪うばかりで何もできやしない。

「橘くん、約束果たしてくれたみたいだしね。ありがと」

意味ありげでミステリアスな微笑に心の奥底で蠢く罪悪感を抑えながら、首を傾げる。

約束……?

まさか……!

「覚えてたのか」

「逆に、忘れてたのかしら」

言葉の端に、哀しみを含ませた彼女は安堵したような柔らかい表情になった。

彼女の頬の生ぬるい血が、もう一度掌につく。

ああ。

やっぱり、あのときの、女の子だ。

この大人びた感じも、妖しげな笑みも、そして時折不意打ちのように見せる、無邪気さも。

俺が知ってる、俺が一番初めに知った、如月天藍だ。

強く振る舞っていて、実は脆く、弱いと、そう思っていた存在。

守らなければならないと思っていたその人は、俺が知っているより、ずっとずっと強かった。

気丈ではないかもしれない。

でも、自分を客観視できる強さ、その上で人を守れる強さ、そして自分を誇れる強さ。

凛とした、揺らがない美しい強さを持っていた。

それはときに他人を、自分をも傷つける危険な美しさだった。

でもそれは危険故、目が眩むほど耀いていて。

……強さと弱さは表裏一体だよ。

瑠璃の放った意味不明な言葉を、今、ようやく実感した気がする。

口内に優美な甘みが広がる。

ガリッ、シャリ、と音をたてて爽やかな果汁が染み渡る。

僅かに苦味を感じた。

俺は、俺は。

――如月天藍が、好きだ。