クールぶってる癖に、艶のある黒髪は光の花の、黄金色の蜜が溶け出してとろりとかかるように、汗で濡れていた。

薄い唇は毒が回っているように青紫で、細やかに震えている。

その隙間から、弱々しい吐息が漏れ、鼻先に被る。

頬に添えられた手も、カタカタと震えていた。

「すまない……すまなかった……」

手が震えた奏者が織りなすヴァイオリン演奏のように、不安定で、潰されそうな悲愴の感じ取れる声。

眉根はいつもどおり寄せられていて。

釣り上がった切れ長の瞳は冷たくて、優しくて。

いつもどおりの、私の中の君なのに。

どうして、そんなに辛そうなの?

「橘くん、手、汚れるわよ……」

「それがどうした。俺みたいな罪人、放っておけばいい。俺は高田より悪質な、裏切り者だ」

「何?そんなことで罪悪感感じてる訳?」

「俺は感情に任せてお前を殴ったしな。人間失格だよ」

「あれは麗華の一言が原因でしょ。怒るのは当たり前よ。寧ろ、冷静だったほうがおかしいわ」

「だとしても……」

私は、苛々してきて懐からあるものを取り出した。

そして。

「んむっ!?」

橘くんの唇に思いっ切り押し付けてやった。

「私は、橘くんにも、麗華にも、その他の皆にも、結構キツく当たったりしてて、後悔してるの。橘くんにも嫌なこと一杯言ったわ。ごめんね。だから、コレでチャラ。次、また何か変なこと言ったらその唇、塞いでやるわ。そのときはりんご飴如きで済まないわよ」

実は……買ったりんご飴、あまり口に合わなかったのだ。

私には甘すぎた。

だから、持って帰って遥斗にでもあげようと思ったのだが。  

まあ橘くんどちらかといえば甘党みたいだし、口を塞ぐのに丁度いいと思って突っ込んでやった。

「俺はお前に――助けられてばかりだな」
 
「何言ってんの、逆よ」

君の、通常運転との温度差からか、熱いとさえ感じる優しさに触れたから。

だから、私は、こうなったのよ。

君がいなければ、私は冷徹な孤高の女王様のまま。

嫌われながら病気に負けていっていただろう。

君の面に出さない温もりが、撫でるように凍てついた心を溶かして、だから……。

私は、私は。

――橘琥珀が、好き。