にやっという意地悪な笑みは以前のものとは比べ物にならないくらい、清々しくて、爽やかで、綺麗だった。

「あんたに負かされ続けて、親にさえ侮辱され続けたこの屈辱、必ず晴らしてやるんだから。親の為じゃないわ、一泡吹かせてやる為だからね。1位の座、奪ってやるんだから、待ってなさい、天藍」

下の名前で呼び捨てで呼ばれたことをむず痒く思いながらも、人差し指を鼻に突き付けて得意気にそう宣言されれば、こちらも黙ってなんていられない。

私の中で何年も生まれなかった、純粋な熱情に侵された闘争心が触発された。

「いいわ。かかってきなさい。返り討ちにしてやるわよ、麗華」

私は掌を上に向け、くいくいと人差し指を招くように動かして、誘うような、挑発するような仕草をした。

彼女はちょっと驚いた表情をすると、ニヤリと唇を歪めた。

「橘」

麗華は私に背を向け、橘くんに駆け寄る。

そして勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい」

ただ一言、それだけ。

橘くんは狼狽えたように目を泳がし、やがて優しく微笑した。

じりじりと焦げるような焦るような、もどかしい感情が湧き上がってくるのを否定できない。

「俺も悪かった。お前も頑張れよ」
 
そう言って、ニコッと笑ったその表情に、また、じわりと粘つくような、嫉妬と認めざるを得ない感情。

気付かないふりをするしか無かった。

張り詰めた緊張が弛緩し、鈍っていた頬の感覚が冴えてきた。

ビリビリと痺れるような痛み、その上、そよ風が傷口から、優しい振りして鋭く差し込んでくるので痛み倍増だ。

傷跡、残るかな。

そう案じていると、頬が温もりに包まれた。

……え?

ドォン

一際大きく、辺り一面を染めていくような光彩が弾けた。

でも、恐らく最後の一輪であろうその儚く繊細な火の花の短い一生は全く見えなくて。

あるのはただ……大切な、君の顔。