ガラス越しに写るブルーは、一点の曇りも無く、その純粋さが気味悪く感じられた。

きっと偽りのブルーだ、と美しいものを無意味に貶す。

木々は桃色に染められ、儚げに揺れた。

桜の花びらが他の花びらと引き裂かれる。

瞬く間に、ブルーはピンクで汚され、心に痛く、見ていられず、視線を部屋に戻した。

希望に溢れたこの季節、それぞれが自分自身の色で彩る。

それなら私は、白。

息を吹きかければ、すぐに黒に染まってしまいそうな、弱々しい白。

面白さも、楽しさも、悲しさも、切なさも。

何の彩りも無い、白という、無彩色。



コンコン

軽快なノックの音が体に重りを乗せたようにのしかかり、心臓が軋んでくる。

天藍(あまら)ー、入るわよ?」

「どうぞ」

「体調はどう?」

厚化粧のせいで、元々無理をしているような気味の悪い笑顔が余計に気味悪い。

「……特に」  

ジャラジャラと金属同士が擦れる音と共に歩み寄って来、まだみずみずしい花を乱雑に花瓶から抜いた。

「特にって……何かあるでしょ、他に」

そして、それをゴミ箱に放り、新しい、鮮やかな色彩の花を花瓶に生ける。

「……ないかな」

母は、はあっ、と大げさなため息をつき、その動きに合わせて、恥ずかしくないのか不思議になるほど大ぶりのピアスが揺れる。

せめて、職務中だけはもう少し清楚な格好をしていることを祈った。

「全く、どうしてこんなに無愛想なのかしら」

私は『無愛想』なんじゃない。

何事にも、『無関心』なんだ。

「まあ、もう少しで退院できるから、頑張るのよ」

「はい」

母が病室のドアを閉める瞬間を確認し、ため息をつく。

特にすることも無く、ゴミ箱に放られた花を見つめた。

容赦なく茎が折れ、繊維が逆らうように何本か立っていた。

どこかに擦れたのだろうか。

切り傷の見られる花弁は、少しずつ痛み、傷口から茶色に染まっている。 

……可哀相に。

まだ、生き生きと咲き誇れただろうに。

鮮やかに、病室を照らせられただろうに。

生きていたかっただろうに。

それなのに、母に抗うことすらできず、殺されるなんて。

私が代わってあげられたのなら、良かったのに。

私は、さっきの母が嫌いではない。

かといって、好きか、と尋ねられれば返答に困る。

幼少期の母の記憶を辿れば、確実に昔より棘があり、さっきの花の件といい、なんだか私の知っている母じゃないようなささくれ立ちを感じる。

それは、私の弟が生まれてすぐに、父が亡くなり、様々ことが重荷となって彼女を潰していったからであろう。 

感謝もしているし、心底、気の毒だとは思うが、それとこれは別だ。