一瞬、何が起きたのかわからなかった。
混乱して様々な思いが絡まり合い、交錯した脳内は白く弾けてショートした。
掌に血がべっとりとついている。
俺は……。
嫌な予感に逆らって、ゆっくりと視線を掌から前へ移した。
長かった前髪を横へ流し、白い額と凛とした綺麗さをもつ切れ長の瞳がこちらを見ている。
片頬は血だらけで俺がそこを叩いたことにより更に血液が飛び散ったのか、飛沫が浴衣や肌に散っていた。
赤と白のコントラスト。
彼女は笑った、かのように見えた。
俺はもう一度掌を見つめる。
ガタガタガタ。
本当に痙攣を起こしたかのような大きく激しい震え。
その掌の中で魔物が暴れるように疼く。
手首を掴んだ。
うねるような脈拍を感じた。
俺、何してんだよ。
恩返し?
それどころか恩を仇で返すばかりではないか。
花火の光が照らすと露わになる赤い液体が段々固まり、皮膚に染み込むように張り付いていくのがわかる。
「あ、……あんた、馬鹿なの!?何庇ってんのよ!正義のヒーローぶって、こっちが迷惑なの!」
そんな憎まれ口をたたきながらも、その甲高い声は不安定に揺れている。
胸が苦しい。
酸素を吸えない。
「馬鹿は貴女よ。私は正義のヒーローじゃないわ。罰を受けた、罪人よ」
「……っ!」
食いしばった歯の間から荒い呼吸音がする。
胸の奥深くに何が鋭いものが刺さって傷口が広がる。
目の縁が熱くなり、液体が瞳を覆って景色が歪んだ。
「ごめんなさい、橘くん。私から殴られに行ったのだから、傷つかないで。悪かったわ」
「……っ」
俺は目頭を二本の指でぐっと押さえて涙を振り切った。
殴った方の手はまだ痺れが残り、生々しいべとついた感触があってそれを敏感に感じ取る度に傷を抉られるような痛みが襲ってくる。
ジクジクと化膿している気がした。
罪悪感なんて、生易しいもので片付けられる感情ではなかった。
自分の愚かさと、不甲斐なさに喉が潰れるまで叫びたい。
「……如月。すまなかった」
掠れ、震えた、情けない声。
なんて脆い。
「でも、俺は……」
許せなかったんだ。
高田も、そして、俺自身のことも。



