どこか聞き覚えがあると思った。
そうだ、クローンの男の子だ。
漢字はわからない、顔も年齢もあやふやだ。
同姓同名の別人かもしれない。
でも、試してみる価値はある、そう思った。
彼を強請って、彼女を引き摺り下ろす、いや、下ろさせる、そう目論んだ。
……ねえ、橘くんって、クローンなの?
躊躇いはあった。
最低の行為をしている自覚はあった。
それをゆうに超える怒りがあった。
それは彼に向けられたものではない、だから、こんなもの彼にとってははた迷惑だろうが、利用する他ない、そういう考えに支配されていた。
彼は、彼にしては珍しく、わかりやすく動揺していた。
いつ何時も揺らがない冷ややかなオーラがぐらつくのが手に取るようにわかり、内心ほくそ笑む。
ビンゴ。
私は……申し訳なさも込めた、彼を丸め込む為だけの目一杯の優しさを注いだ。
優しさとは到底呼ばない、濁った廃水を浴びせていただけだっただろう、と今は思う。
でも彼は、上辺だけの甘い匂いに惑ってこちらに来てくれた。
でも。
「如月だけは、傷つけないでくれ」
私の、本当の目的を見抜かれた。
何故、どうして。
私があからさまに彼女を避けていたからだろうか。
何となくそんな予感がしたのだろうか。
そのときは全力疾走後の心臓のようにバクバクと大きく速く拍動していて冷静な判断ができず、仲間にしていく筈の彼に高圧的な態度をとった。
舐められないために、服従させるために。
一時は失敗かと思ったが、運が味方し、私はもう一つ、切り札を手に入れた。
それが、あんたが捨て子だってこと。
私のお父さんと、あんたのお父さんはどうやら知り合いみたいだった。
たまたま父と話す機会があったとき、成績の話題になった。
配布された順位表を見て父は訝りげに声を漏らした。
「キサラギ、アマラ……?」
「お父さん、知ってるの」
「ああ、まあ……あいつ、血が繋がってないのにいい教育したんだな」
あいつ、はあんたのお父さんね。
「え、彼女……養子なの?」
父は子供のように悪戯っぽく微笑んだ。
「養子とは少し違って……捨て子かな」
何故父がそのことを知っているのかはわからないが、その馬鹿にするような言い方があんたの父親とあまり仲が良くないことを窺えた。



