それは細いため息で破られた。
「僕は自らその病院を辞めて、一生医療には関わらないと決めた。だけどね、中々新しい働き口がなくてさ」
彼は茶化すようにおどけて言ったが、空気は重くなる一方だった。
そんなことを言いつつも、彼はまもなく秘書業に就職し、医療界のしがらみから解放され、充実した生活を送っているであろう。
私は高校生になった。
とても目障りな女子高生が現れた。
それがあんただ。
中等部のときから風の噂で耳にはしていたが、目の当たりにしたのは高校生になってから。
噂以上だった、あんたは。
氷霧を漂わせているかのように、その域に侵入することさえ躊躇うような冷たさの感じられる佇まい。
でもその瞳は磨かれたように艶めいていて、澄んでいて。
切れ長の形状は、いかにも和風美人で。
人を寄せ付けないような高貴さをも持っていたあんたは、忖度や遠慮、お世辞を知らなかったようね。
ある意味、素直で真っ直ぐだとも言えた。
その性質は多くの人を傷つけた。
切れ長の瞳が、刀身のように見えるくらい鋭く、深く。
でもあんたは頭が良かった。
だから誰も何も言わなかった。
その代わり、涙を呑んで無言で離れ、近づかなかった。
孤高の女王様として、畏怖されていた。
私はあんたが嫌いだ、だから無意識の内に観察する。
すると、ある事に気づいた。
橘琥珀を目で追っている。
彼は編入生にも関わらず、持ち前のリーダーシップと学年1位のあんたに匹敵する頭脳、端正な容姿等で尊敬の念を集め、僅か半年で学級委員まで上り詰めた。
生徒会長は確実だと吹聴される。
性格はクール、というよりは何にも興味が無いような無気力、といったほうがしっくりくる、でもどことなくあんたに似ていた。
涼しい顔して、とんでもない業績を残していくのだから。
そしてもう一つ、気づいた。
彼もまた、如月天藍を目で追いかけている。
私は、利用できると思った。
あんたを蹴落とすのに、ね。
あんたらの接点はよくわからなかったけど、特に問題は無かった。
さて、どうやって墜とそうか、そう考えたとき、私の脳裏に何かが引っかかった。
まるで、歯の隙間に何かが挟まったように。
その何かがわかるのには、数日を要した。
タチバナコハク、である。



