交錯白黒


「それをね、人工的に作り出そうとしている奴、いや、作り出している奴らがいるんだよ。僕が知ってる人間のクローンは、丁度君が生まれてくる年くらいに作り出されたらしい」

虚空のその奥までも見据えているかのような瞳は、闇に呑まれていて何だか怖かった。

「僕はそれを知らなかった。人間クローンの存在さえも。だからって、それを言い訳にしては駄目なんだろうけど。研修医としてある病院に努めているとき、ある男の子の問診をしてくれ、と頼まれた」

彼は苦い顔して酒を注ぐ。

「それはそれは奇妙なものだったよ。初めは、自閉症とかアスペとかかなって思ってたんだけど、それにしては質問の内容が変だし、その男の子も普通の子供、いや、それ以上にしっかりと返答していた。まるで大人みたいだったね。あまりにも淡々としているので、人間であることさえ疑った」

「もしかして……」 

「そう。その男の子がクローンだったんだよ。気になって色々調べていたらたどり着いた。僕は怒り狂って院長を問い詰めた。人の命をなんだと思ってるんだ、ってね。でも……これは仕方無かった、とか、実験に使用したつもりはない、とかそういう言い訳の一点張りだった」

彼の糸目がかっ、と開き、充血していく。

液体がそこから溢れ、机に落ちていた。

グラスを握っていた手の甲が筋張り、ミシミシと軋む音が聞こえてきそうだった。

「その男の子はね……番号で管理されてた。まるで物のように。tsー2といってね。彼にはタチバナコハクという立派な名前があって、一人の人間なのに」

普段見せない感情の爆発に私は戸惑うばかりで、言葉一つ、かけられなかった。

何も出来ないことへの身が切れる程の悔しさも、怒りも、情けなさも、きっと私が思っている以上に強く、心に圧しかかっているのだろう。

「法律にも抵触しているから、訴えてやると言った。だけど、そんなことをすれば君の将来はどうなるかわからないぞ、医療の道を外れたって意味ないからな、と脅してきた」

「はぁ!?その人、馬鹿なんじゃないの」

ふっ、と彼は涙塗れの顔で力なく笑った。

「そうだよ。皆、馬鹿だから人間のクローンなんて作れるんだ。人を人工的に操作するんだ、研究だけのために」

息の詰まるような静寂。

命の考え方の相違への、哀れみの静寂。