私の家系は、代々医療に携わってきた。
私の父は病院の院長で、手術の腕も驚異的だと評判の医者である。
アメリカでの留学経験もあり、そこでも素晴らしい研究成果を残したのだと聞いた。
だから、うちはお金には困らなかった。
でも私は父が何を専門としているのか、また、何を研究していたのかは聞かされなかった、知らなかった。
私には兄弟がおらず、母も医師で、また、過保護だった為いつも家にいた。
一人にならないよう、親戚のお兄ちゃんと毎日一緒にいたので、ひょっとしたら父や母より親しいかもしれない。
几帳面で厳しくて、お堅い人だけれど、悪い人ではない。
彼は私の父の元で研修医として経験を積んだあと、ある出来事により秘書業へと進路変更し、今では会う機会が殆ど無い。
あぁ、思い出したら何か会いたくなっちゃった。
それで、そのお兄ちゃんは少なくとも私といた間は医者を目指していたようだから、医学の知識が豊富で、よく私に聞かせてくれた。
その時間がとても楽しかった。
ある時、こんな話を彼はした。
彼は酒を飲み、酔いながら呂律の回っていない口調で、大声だった。
いつも機械のように冷静で落ち着いている彼に似合っていなかったので、とてもよく覚えている。
「ざけんなよぉ、ちっとは反省しろやぁ、この野郎ぉ。クローンだろうが何だろうが皆同じじゃねぇかよぉ」
「令くん、酔ってるの?珍しいわね、お酒なんてのも」
「んぁ?麗華ちゃんかぁ。大きくなったなぁ」
「おっさんみたいなこと言わないで。まだ二十そこらでしょうが。それに、何が大きくなった、よ。毎日一緒にいるでしょ」
「そうかもなぁ」
「で?酔わないと逃げられないような悩み事って、何なの?クローンって何」
私は氷の入った水を差し出し、半ば呆れながら聞いた。
「どうして悩んでるってわかるんだぁ」
「一目瞭然でしょ。普段飲まない酒飲んでるし、何ならきっちり言ってたわよ」
彼は緩んでいた赤ら顔を少し引き締めて、口直しをするかのようにグラスに口をつけて、傾けた。
そのグラスを机に優しくコトンと置くと、氷がカラリと崩れた。
「クローンっていうのはね、簡単に言うと、全く同じ遺伝子をもつ生物のことだ」
口調も、まだやや呂律が怪しいところはるが、いつもの堅い感じに近づいた。



