『そういう意味じゃねーよ。仮に結婚したとして、嫁は心理検査されるだろーし、子供は俺と同じ目に遭うのは目に見えてるだろ。そこまでして家庭持ちてぇとは思わねーよ』
え……。
どくん。
『……私なら気にしない。本当に好きなら何があっても一緒にいたいと思うものよ。少なくとも私はそう。愛してるから。子供は養子でももらえばいいじゃない。それなら検査されないでしょ?』
機械越しなので少し声質が違うように感じるが、この声、台詞は、橘くんと、私のものだ。
橘くんがこちらを振り向く。
酷く瞳孔が収縮し、動揺していた。
私も反応を返せないくらいに、驚いていた。
「……盗聴したのか」
「教室の前にいたら、聞こえてきたの」
その声は心なしか弾んでいるように聞こえ、不気味だと思う。
「でも、この音声が何だって言うのよ?」
橘くんの秘密が隠された、二人だけ、いや、そう思っていただけの会話。
何としてでも誤魔化す他ないだろう、その筈なのに橘くんは微動だにしない。
まだ、彼女にはバレていないから今なら逃げられるのに、という焦りが私を駆り立て、次第に苛つきへと変化する。
「あんた、わかってるわよね」
全てを見抜いているような真摯な瞳の光が、私の汚れを取っ払っていくようでドキリとした。
その透過した光の影で、傷が揺らめいていた。
彼女の言う、私が"わかってること"が何か見当がつかず、心臓の鼓動ばかりが爆発音と共鳴する。
「何のことかしら」
まさか、そんな訳、ない。
「白々しい演技ね。ねぇ、琥珀、何で彼女にもバレてるのかなぁ」
「だ、だから、何のことよ」
高田さんが彼女の浴衣を掴んでいた橘くんの手を易易と剥がす。
そして、見せつけるようにゆっくりといやらしく、赤ネイルの施された爪のついた指を一本ずつ彼の手首に巻き付け、掴み直した。
蛇の舌のようだと思い、彼が呑まれていきそうで口を挟んだ。
彼女は邪な微笑を浮かべて小首を傾げた。
「彼がクローンなの、あんた知ってるでしょ」



