「……高田ァ!!」
今までに一度も聞いたことのない、強く大きい憤怒の籠もった、咆哮のような声が丘に響く。
その迫力に皮膚が火傷したようにビリビリと痛む。
引き止めようと伸ばした腕は空を切り、上がると思っていた足はまだ動かなかった。
「てめぇ、どういうつもりだ!!殺人未遂だぞこの野郎!!」
橘くんはそうがなるなり、さっき高田さんが私にしたように襟元を掴み、木に勢いよく打ち当てた。
ドン、と鈍い音が花火の音と重なる。
閃光が形どった彼女の髪はグシャグシャに乱れていた。
私は詰めた呼吸を整える暇もなく、反射的に叫んだ。
「待って!橘くん、待って!!」
「うるせぇ!黙っとけ!!」
「黙らないわ!!お願いだから、一回待って!!ねぇ!!」
彼はやっとこちらに顔を向けた。
しかしその目は優しくも、また、冷徹でもなく、理性を失ったようなギラギラとした輝きを放っていた。
血走っている。
荒れる息で肩は激しく上下し、白い歯の隙間からは唸り声までも聞こえてきそうだった。
「お前、殺されるところだったんだぞ!?馬鹿言ってんじゃねぇよ!!殺人に情けなんて要らねぇんだよ!!」
彼の低い声が荒げたことにより、ガラガラとした濁声になってしまっていたので、不覚にも彼の父、珊瑚と重なる。
「なァ、高田。どういうつもりなんだよ」
「……いいわね、あんた。守ってくれるナイトがいて」
ダァン!
木にひびが入るのではないか、と恐れる音だった。
言葉を喉から出さなければいけないのに、私の意思に反して膜で覆われているように何かに塞がれ、文字一つさえ、出てきやしない。
「答えろ。何故だ」
「殺したくなったから。それだけよ」
彼女は黒目を下へ落とす。
「適当を言うな!!人の命を消し去ろうとした愚かな所業の報いを受けろ!」
「ねぇ、琥珀」
「あ?」
高田さんの静か過ぎてじっとりとした薄い粘りを持った声が、奇妙を通り越し怖気を感じさせた。
橘くんもそれを感じ取ったのか、怒号が失速した。
「これ、どういうことなの?」
スマホを懐から取り出し、いやにゆっくりと私達へ向ける。
スマホを持つ右手とは逆の手で右の袂を引き上げつるりとした細い腕が露わになる。
血のようなネイルが、魔女を思わせた。
だから、彼女が何か呪詛をスマホにかけて攻撃してくるのではないか、という根拠のない不吉な想像をした。



