靄で包まれたような感覚の私の耳にうっすらと聞こえて来たのは素早く地面を蹴る音だった。
それも、スローモーションのように、そして、どこか広いホールに響くように、反響している。
「離せ」
「痛っ……!痛い!!」
金切り声がした瞬間、首筋が強い締結から解放された。
「っかは、げほっ、けほ、けほっ」
足が無いかのように力が入らず、重力に任せて倒れ込む。
どくどくどくと物凄い速さで、入ってきた酸素を血液で脳に運んでいる。
視界は軸を失ったようにグニャグニャに揺れ、気分の悪さが胃の底から込み上げてきた。
ドォン
花火大会は当分終わりそうにない。
「――ぎ、きさらぎ、如月!!」
「た、ちばなくん……?」
肩を大きく揺さぶられ、白く霞がかった視界が晴れてきた。
下を見ろろして降りてきた前髪の影に隠れた表情は、今にも泣き出しそうで情けなく、一杯一杯だった。
ギュッと寄せられた綺麗な形の眉はいつもの不機嫌そうなものではなく、目尻にいくにつれ下がっており、心配してくれているのはわかるがこちらが心配になってくる。
私を支える太く硬い腕が、僅かに震えていた。
電流が走り、麻痺したように力の入りにくい右手を無理矢理気合で持ち上げ、彼の頬に添えた。
震えていた。
「しん、ぱい、しないで……。だい、じょーぶ、よ……」
赤子のような拙い発声で私が無事を示すと、橘くんは薄い唇をぐっ、と噛んだ。
「ありがと……」
麻痺が収まり、大分力が入るようになってきて、枯れた声ではあるが、言葉も先程よりも流暢だ。
「もう、大丈夫。一人でも立てる筈よ」
きっと私に似合っていないだろう微笑を作ると、彼は悲痛な表情を変えぬまま、そっと私を離した。



