「ふざけないでって言ったでしょ!!」
掴まれたままの胸倉を思いっ切り引かれたかと思うと、また木に背中を打ち付けられた。
ふざけてなんかない。
「ふざけてなんかないわ。私が何を奪ったと言うの?貴女だって……貴女だって奪ってるじゃない……!」
「はぁ!?」
この喧嘩を買うものか、と思っていたけれど、ブレーキが作動しなかった。
今まで溜めて、押さえつけて、我慢して、自分自身を殺して、騙してまで何とか生きてきた。
それが全て彼女のせいでは無い。
でも、それを酷くさせた張本人は、彼女である。
「私の高校生活を奪ったのは貴女。プライドを傷つけたのは貴女。人権を奪ったのは貴女。楽しかったこの時間を奪ったのは、貴女じゃない!」
喉がヒリヒリと痛んで、何も悲しくないのに目頭が熱くなる。
……違う、こんな自分が哀れで、悲しいのだ。
片手の平を見れば、赤い液体がべっとりとついており、シワの形に白い線が入っていた。
その線が私に絡みつき、縛っていきそうに思えた。
こちらは、叩かれた頬を押さえていた手である。
きっと、彼女の鋭いネイルが皮膚を裂き、赤い液体を垂れさせたのだろう。
彼女の爪は、真っ赤だった。
血かネイルかわからない。
急激興奮したことにより、頭に血がのぼったのかうまく思考が回らなくなって、ぼうっと輪郭がボケてきた高田さんを見上げる。
泣いているように見えた。
でも、鮮明にはわからない。
ただの勘だ。



