さわさわと心地よい風が流れ、それにより揺れた木々は擦れあい、囁きあう。
興奮と橘くんにより上がった体温をゆっくりと冷ましていった。
人混みに疲れ、近くの人気の無い小高い丘に避難してきたのだ。
「ごめん、折角連れてきてくれたのに、結局逃げて」
「ここでもあそこと同じくらい綺麗に見えるスポットなんだよ。俺も人混み苦手だし、構わねぇよ」
むぐむぐ綿飴を食べながら、このいつもの乱暴な口調は何だか合っていなく、可笑しかった。
綿飴……。
雲のような輪郭に、淡い桃色の物体はファンタジックで可愛らしかった。
「食べたいのか」
「私何も言ってないじゃない」
「いや、ずっと見てるじゃねぇか」
それは、綿飴じゃなくて――。
かあっ、と頬が熱くなる。
「食べろよ」
橘くんは食べかけのところを私に向け、私を捉える瞳で、何とも言えない圧をかけてきた。
食べざるを得ないのか、というか、正直に言えばあの摩訶不思議な物体は味わってみたい。
でもこれ、間接キス……。
だが、あの橘くんがこうも無表情で差し出しているということは、世間では間接キスなど日常茶飯事なのかもしれない。
無理矢理落としどころを作った私は綿飴に口をつけた。
「甘っま……」
綿上のそれは口内で溶け、ねっとりとした甘さが広がる。
少し食べる分には美味しいが、これがあの量となるときつい。
「意外ね、橘くんこういうの苦手そうなのに」
「そうか?冷静になるためには糖分も必要だぜ」
「へぇ」
「花火まではあと3分くらいだ。俺ゴミ箱にゴミ捨ててくるから、ちょっと待ってろ」
「わかったわ」
橘くんが立ち上がり、足音が次第に遠ざかっていく。
風がひんやりと感じられ、木々の擦れる、吐息のような繊細な音のみが静寂を埋め、独りを実感させた。
人肌恋しく、私だけのこの空間はおどろおどろしくて、生温い風に少しゾクリとした。
早く戻って来ないかしら、などと思う自分。
私はもう、どうしようもなく――。
灰色は、汚い色じゃない。
でも、彼の黒は失くして欲しくない、だから。
ずっと一緒にはいられない。



