交錯白黒


「着いたぞ」  

ストン、と彼の手から滑り落ちると、目の前には眩しいくらいの光の列があった。

私と同じように浴衣を着た人、小さな子供の手を引く人、友達と騒ぎながら歩く人。

目眩がするような人の量だ。

様々な食べ物のにおいが混ざった風は、とても新鮮でわくわくする。

これが、屋台というやつだ。

「す……すごいわね……!」

「お前初めて?」

「そうよ!花火も見れるのよね?いつ?」

「あと……一時間後くらいだな」

ズボンからスマホを取り出し、画面を光らせてから彼は言った。

「それまでここを回ってもいい?」

病院の売店で何か買える用のお金を置いていたので、ちゃっかりお小遣いも持ってきていたのだ。

「当たり前だろ。そのために来たんだろーが」

「じゃ、じゃあ……まずは、あれ!りんご飴!食べてみたかったのよ。ホラ、橘くんも来て」

初めて、私から彼の手を引いた。

いつも引っ張られてばかりの、右手で彼の手を掴んで。

タイトなデザインの浴衣では歩きにくかった。

折角着せてもらったのを崩す勢いで私は彼を引っ張り、駆けずり回った。

一時間、たっぷりと楽しんだ。

りんご飴も食べたし、フランクフルトも、ベビーカステラも、金魚すくいも、ヨーヨー釣りも、くじ引きも、過去最高までに遊んで、楽しんだ。

橘くんも、表情がいつもより柔らかかった。

楽しかった。

このときだけは。