全身が火照って湯気が出そうだ。
「そんなことかよ」
橘くんは呆れたような、素っ頓狂な声を出すと、すとん、と私を落としてくれた。
ドキドキは収まらない。
「俺、あっち向いとくから。速く着替えろよ」
私はさらに熱くなりながら、そっぽを向いた橘くんの服の裾を引っ張った。
「……どした」
「……着方わかんない」
「はあ?着たことねーの」
私は今までに無いくらい、赤くなり、下を向いたまま頷いた。
体が溶けそうなまでに熱い。
橘くんは困ったようにくしゃくしゃっと黒髪を乱すと、少し頬を赤らめて言った。
「俺が着せてやるから、浴衣出せ」
「……ヘンタイ」
「病院着の上からに決まってんだろ、馬鹿。はい、両手水平に開いて」
少しだけ肩に重みがかかる。
「長くて地面についてるけどいいの?」
「浴衣ってのはこういうもんだ。触るぜ」
橘くんは開いていた前を重ねて、「お、紐ある」とか何とかぶつくさ言いながら、胸の少し下あたりの胴を紐で括った。
全体的に距離が近く、ドキドキしてしまい、余計な喋りをしてしまう。
「ねえ、帯じゃないの」
「それはまだだ。まぁ待てよ」
今度は紐の上の布を引っ張って、ダラン、と紐を覆うより少し長めに布地を出した。
そして橘くんは私の後ろに回る。
すると、体温を感じて後ろ斜め上を見ると、橘くんは私の肩越しにさっきいじったあたりに帯を当ていた。
ジャスミンの香りが鼻孔をくすぐる。
コツン、と頭同士が軽くぶつかった。
私はピクッ、と跳ね、また下から熱が上る。
「わり」
橘くんがあまりにも通常運転なので少しムッとしながらも、この近さで心臓の音が聞こえないか心配だった。
橘くんは金糸雀色の帯をそれより上で巻き、何やらしばらくゴソゴソしている。
「できたぞ」
「ありがとっ」
見えないけど、着れたこと自体が物凄く嬉しくて、私に似合わない弾んだ声でお礼を言ってしまった。
袖をひらひらと振ったり、丁寧に後ろで蝶々形に結ばれた帯を見たりして、ニヤニヤする。
「次、髪あるから落ち着け」
「え、髪?」
「髪飾り、あるから」
ひょっと出したのはふんわりとした白と水色の花が繋がっている髪飾りだった。



