「そっか。それなら仕方ないね」
また柔らかに笑った彼に、正直驚く。
……信じたの?
「だけどさ、遥斗、急に呼び出してるんだから、それくらい気を付けてよ〜?」
「努力する」
ニッ、と白い歯を剥き出しにして笑った遥斗を睨む。
……きっと、さっき下を向いていたときに連絡したんだ。
私に確認取れば、断られるような内容で呼び出したんだ。
遥斗は私の怒りを感知したのか、視線だけ私に移し、目を細めた。
完全に馬鹿にされたようなその態度にイラッとし、更に、遥斗の意図を読み取れないくらい鈍いその人にもイラッとした。
「僕の名前は、ルバタチナリ。よろしくね」
「えっ」
はるくんが小さく声を漏らした。
それはきっと、ルバタさんが私に手を差し出してきたからだろう。
背景に白い羽が舞い散りそうなくらい温かな微笑みと、白く滑らかで、節々が薄い桜色の手。
まるで芸術品だ。
私は、その美しい手を受け取ることが出来ずにいた。
とてつもない、大きな違和感が私を拘束している。
……ルバタ、チナリ。
これに、私は引っかかっているのか。
どうしてだ、何故こんなにも違和感に襲われているんだ。
「天藍ちゃん!」
千稲ちゃんの高い声にはっとする。
いつの間にか俯いていたようだ、顔を上げればルバタさんのきれいな手。
「ああ、ごめんね。突然来た男に握手しろって言われても困るよね」
私が違います、と言う前に、申し訳なさそうに眉を下げて手を引っ込めた。
……まあでも、遥斗の知り合いじゃなければとっくの前に通報してたけどね。
「漢字は、流れるでル、国旗の旗でバタ、知識の知でチ、成人の成でナリ」
並べられた漢字を頭の中で構成する。
流旗知成。
格好いい名前だな、と思うばかりで特に違和感の解決へとは繋がらなかった。
あの、子犬のようなふわりとした可愛さにはそぐわなくて、驚いた。
「君の名前も教えてくれるかな?」
「あ……私はキサラギアマラです。突如の如と月でキサラギ、天の川のアマ、藍色の藍でラ、です」
由来は知らないけど、自分でも変わった名前だと思う。
「へえ〜天藍ちゃんか〜!可愛い名前だね」
ぼっ、と体温が上がる。
褒められたのは名前だが、面と向かって『可愛い』だなんて言われたことがなかったため、全身が熱いまま、硬直。
「あ、天藍姉、照れてら」
「は、遥斗!」
遥斗が何もかも見透かしたように、ニヤニヤしながら突っ込んできた。
……意地悪だ、遥斗は。
千稲ちゃんにはこんなことしない癖に。
「それで、あの、流旗さんは何をしに来たんですか」
「あぁ、そうそう。遥斗から、天藍ちゃんに勉強を教えて欲しいっていう依頼があって来たんだ」



