『花火大会』

安っぽいフォントで印刷された文字の乗るチラシを横目でぼーっと見つめる。

そういえばクラスの女子が騒いでいたな、とうっすら思い出した。

8月3日、ねぇ……。

「ほーら天藍ちゃん、手が止まってるよ」

「はいはい。すみません」

「こらこら、高2の夏休みは貴重な時間なんだからね〜?一生戻ってこないよ、青春は」

じゃあ何でそれを勉強で潰すんですか、と言いたいところである。

「今日部活、良かったんですか」

「いや、これから」

「そうですか」

ちらり、と横目で、別の机で勉強する黒王子を見る。

以前の、黒歴史にも残りうるやりとりのあとであるのに、涼しげな顔をして瑠璃さんとわたしの病室を訪れたのだ。

全く、何なんだか。

それを気にして、瑠璃さんへの態度をどうすればいいか迷い、ついぎこちなくなってしまう。

しかし、橘くんの余裕をみると、こんなに悶々としているのが馬鹿らしくなってくる。

だが、いつもどおり振る舞おう、と思った瞬間にはあの出来事がよぎり、固まってしまうのだ。

橘くんの心が読めない。

「如月」

「ひゃ……はい」

可愛くない奇声が喉から絞り出る。

今まさにあなたのことを考えていたから、急に話しかけてほしくない、なんて自分の都合ばかりだ。

「お前、血液型何」

「……はい?」

突飛な話題に驚き、間が空いてやっと反応できた。

「遥斗が聞けってうるさい」

「あー……ごめん。無視でいいわよ、私のお母さんは知ってるし」

「へぇそう」

「でもさ、またあの時みたいな事故とかあったもきに困るし……僕らにも教えてよ」

また面倒臭いことになった。

「いやでも、私特殊な血液型なので」

「じゃあ尚更じゃん」

何故こういうときだけ鋭く気づくのだ。

厄介な性質である。

「 o型のrh null 」

「……え?」

「私の血液型ですよ。1億数千万人に1人の確率と言われ、誰にでも輸血できるから黄金の血、なんて呼ばれてます。ね、言っても無駄でしょう。どうせその事故のときも幸運で輸血しなくてよかっただけ。これじゃ心臓移植も、別の大事故で輸血が必要になっても私の血が無くなったら終わりです」

「え、いや、あの……」