「お前っ、正気かよ……っ」

ダン、と大きな音がして橘くんの方に目をやると両肘を机につき、両手のひらで顔を覆っていた。  

まるで乙女のような格好だ。

艶めく黒髪から覗く耳の先はこれでもか、というほど赤い。

可愛いだなんて思ってキュンと胸が締め付けられた。

「……私、何かしたっけ」

「自覚ねぇの……」

掠れたような声がいやに近く感じて、何だかそれがカッコよくて私まで少し赤くなった。


「何か俺、カッコ悪ぃ」

「え、どこがよ」

「〜〜っ!」

遂に机に突っ伏してしまい、私の頭は大混乱だ。

初期の頃の、あの冷徹、クールキャラは捨てたのか、と見紛うほどのキャラ崩壊っぷりだ。

「お前人泣かせだよな」

「何がよ」

「成績要らないってのに好成績取ったりとか、あとそれから……言えね……じゃなくて、言わねぇよ」

私はテレビのお笑い芸人のように椅子からずり落ちる気分だ。

「そこまで言ったら教えなさいよ。気になるじゃない」

「自分で考えろよ」

「降参よ。さあ、教えて」

「降参が早すぎる」

まるでコントのようなやり取りを、目を合わさずにしていることが急に可笑しくなり、吹き出した。

それに連られたのか、橘くんまでもが声を上げて笑い始める。

橘くんのこんな砕けた様子は初めて見たので、驚くと同時に、とても嬉しかった。

橘くんの不敵な笑みも素敵だけど、子供のように笑うと鋭い目尻が下がり、優しい表情になってそれも素敵だと思った。

ひとしきり笑った後、足音が近づき、すっと真顔に戻す。

心臓の異常なくらいのドキドキ、胸の締め付けと発熱は、どんな風邪や病気とも違っていた。

何の病気を伝染されたのか、私はその病気の名前を何となくわかっていても、認める気にならなかった。