「それで?WhiteQueen様的には成績は要らねぇってことかよ?」

「まあ、短絡的に言えばそうよ」

「病院継がねぇのか」 

「ええ。あの世界に入るの嫌だもの。後継は遥斗に期待してて」

言い終わってからはっとした。

この言い方だと、橘くんを傷つけてしまうのではないか。

あの世界から生まれた橘くんは、あの世界が嫌だなんて聞くと自分がよくないもののように感じてしまうのではないか。

横目で橘くんを見るが、彼も私と同じように俯き、宿題をしているようで、特に不機嫌になっている様子もなかった。

ほっ、と安心していると、前髪の陰りの中から黒い瞳がこちらに動き、目があった。

ドキッとして反射的に宿題をしていたふりをする。
 
「ぶ、BlackPrince様的には何か将来設計はあるの?」

誤魔化すつもりで言ったが明らかに不自然だ。

「特にねぇな。そこそこ良いとこの企業に入社して、普通に暮らせたらそれで満足だ。結婚はしてぇけど、嫁と子供に迷惑かけられねぇし」

結婚て……。

興味無さそうなフリして意外に真面目に考えているというギャップの打撃が重くてフリーズした。
 
「何でよ。橘くんしっかりしてるんだから、迷惑かけるなんてこと、早々ないんじゃない?」
 
何とか捻り出した言葉がこれだ。

なんと情けない。

「そういう意味じゃねーよ。仮に結婚したとして、嫁は心理検査されるだろーし、子供は俺と同じ目に遭うのは目に見えてるだろ。そこまでして家庭持ちてぇとは思わねーよ」

強がっている声の奥で、眉根を寄せている表情が目に浮かぶようだった。

と、同時にやってしまったと思い、何とか取繕おうとする。

「……私なら気にしない。本当に好きなら何があっても一緒にいたいと思うものよ。少なくとも私はそう。愛してるから。子供は養子でももらえばいいじゃない。それなら検査されないでしょ?」