橘くん達の葛藤を受け止めた後は、気恥ずかしくて目も合わさずに、さっぱり帰っていった。

案の定、廊下で泣いていた瑠璃さんもきちんとお持ち帰りしてもらって。

私はなんであんな恥ずかしい台詞を言えたのだろうか。

あれは本当に自分だったのだろうか。

思い出すたびに赤面してしまう。

でも、さっきの話を聞いて、私は、自分の言ったことに強い後悔の念を抱いた。

――円満な家庭で育ってきたから私みたいなのの気持ちも想像できないんだね。自分が幸せだからって。何が学級委員長よ。最っ低。

最低なのは、私じゃない。

私達は、橘くんが優秀だからってあらゆるものを求めて、期待を背負わせて、彼を追いつめたのだ。

幼い頃からずっと、人工的に作られた命だと認識して、孤独に苦しみ続けた辛さは、私には到底わからないだろう。

愛の無い、無機的な命。

橘くんは自分のことをそう表現した。

なのに私は、幸せだとか、円満な家庭だとか、彼が渇望し、また、嫉妬していたものを並べ、彼の傷を抉った。

そう思うと、彼の冷徹さや態度もそこからなんだろうな、と思う。 

彼は強い。

それは間違いない。

なぜなら、ここまでギリギリでも自分を保って、生きて来られたのだから。

きっと、何度も、何度も、挫けそうになって、悔しくて、虚しくて。 

それでも、歩みを止めなかった。

だけど彼は本当の自分より強く見せている。

心の傷が見えないように、周りとの大きな違いに絶壁を築くように。    

負けないように、虚勢を張って、周りとの距離を置いて、今まで頑張ってきたのだ。
  
それを全て知らずにぶち壊すような発言や態度をとったことを、今すぐ謝罪したい。

そして、全力で協力していきたいと思った。

辛いのは私だけじゃない。 

私も大分変わったな、と苦笑する。

……でも、そうしたら、人と関わりを持たない筈の橘くんは、何で私に自分から関わりに来たのだろう?