「ふざけんな!!!反省してるのか、この野郎!!」

「父親に向かってなんだ、その口のききかたは」

「死んだ母さんのこともマトモに教えてくれない犯罪者のお前を、自分の息子も愛せねぇお前を、命を大切にしねぇお前を!!俺は親父とは思わねぇ!!」

「気に入らないなら出て行け。お前がいなくなっても何にもならない」

「……っあぁ、そうするよ!!」

ダン!

引戸が荒々しく打ち付けられる音と共に、勢いよく人が飛び出してきた。

「待って!」

ぱしっ、と破裂音がするくらいの勢いで、何とかその腕を掴み、走るのを止めた。

その手首は、優しく柔らかく、女の子みたいな声の瑠璃さんには似合わなく、硬くて太い。

「……聞いてたの」

乱れた黒髪から覗く瞳はいつもの艶は消え、滾る怒りと苦しみ、深い傷が流れ出していた。

いつも緩やかにカーブし、天使を思わせる微笑みもなく、まるで機械のようである。

「ごめんなさい、たまたま聞こえてしまって……」

「じゃあもうわかるよね?僕はもう家出するから、邪魔しないでもらえるかな?」

普段との落差が大きいだけに、現在の冷徹さに押され、慄く。

怯んだ私が潤いを失った目に映っていた。

ここで私が怯えてどうするの。

瑠璃さんは怒ってるんじゃない、傷を隠そうとしているだけ。

傷を見せたくないから、隠すので必死で、冷たく、怒ることでしか誤魔化せないだけなのだ。

なら、その傷を癒し、苦しみを解けるのは事情を知ってしまった私だけではないか。

「しんどい、ですか」

「え?」

「瑠璃さん、とても苦しそうです」

「……」

ここが、分岐点。

私、間違えてないよね?

瑠璃さんを傷つけてないよね?

次第に大きくなる心臓の鼓動を聞きながらら、瑠璃さんの様子を伺っていた。

瑠璃さんは真一文字に結んでいた唇をふっ、と緩めたかと思うと、眉毛を8の字の下げ、哀しい微笑を浮かべながら震える声で言った。

「君に何が分かるんだよ」

……終わった。